家族に本当の気持ちを伝えられない作家、大石静さん

おおいし・しずか 脚本家。東京都生まれ。TVドラマ「長男の嫁」「ふたりっ子」「アフリカの夜」「四つの嘘」「セカンドバージン」「クレオパトラな女たち」「家売るオンナ」など執筆。

家族のことが大好きです。毎年旅行に行きたいし、ご飯も一緒に食べたい。でも、いざ家族の前に出ると、強がって冷たく当たってしまいます。「いなくなってからじゃ遅いんだから、もっと話さないと後悔するでしょ」といつも自分を叱っています。本当の気持ちを直接言うのは照れくさいし、きっと言えないと思います。どうすれば伝えられますか。(神奈川県・10代・女性)

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家族は仲良くしなければならない。楽しく食事を共にし、語り合い、励まし合い、支え合わなければならない。親は大事にし、兄弟とも仲良くしなければならない。それができない者は不幸な人間である。という幻想が、世界中にあります。

欧米では必ず夫婦はダブルベッドに寝て、朝に晩に「愛してるよ」とハグし合い、家族がすべてだと口癖のように言います。欧米のそれは、キリスト教の教えに基づくようですが、日本の場合は、無宗教の人が多いのに、家族仲良くという幻想だけが、何かの教えのように、圧力として我々に迫ります。

あなたはまさに、その被害者ですね。そんなよくわからない幻想にとらわれることはないと思います。

70年近く生きて来た私の実感としては、家族とはうっとうしいものです。わかり合えないものです。親兄弟を大事に思う気持ちは私にもありましたし、親が逝った時は悲しかったです。

でも、理解し合えたとはまったく思えませんでした。親も私と理解し合えたとは思っていなかったでしょう。

でも、そういうものなんじゃないですか、人生って。人は基本的に孤独なんです。

だからほんのひとときの虚(うつ)ろな幸せに酔うために、異性を好きになって胸ときめかせたり、友達とバカな話に笑い転げたりするのです。家族旅行や、家族の楽しい食卓なども同じです。

何か具体的に、親と相談したいことがあるんですか? そうではないでしょう?

それならここで考え方をちょっと変えてみて下さい。大事に思っている気持ちを伝えなきゃ幸せな家族ではない、という考えを捨てて下さい。そこから解放され、伝えなくてもいいんだ、無理しなくていいんだ……と思えたら、あなたも楽になって、ポロっとある瞬間に、素直な言葉が出るかもしれません。

結局出ないかもしれませんが、出なくてもそれはそれでいいと思います。出なかったからと言って冷たい人間だという訳ではありません。

人間はそういう風に不器用なものだし、だからこそ、いとおしい命なのですから。


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