カットとカラーだけ美容院 休眠人材で時短女性つかむ
カットと髪染め専門の美容室「ChokiPeta (チョキペタ)」が40代後半~60代の「時短」女性の支持を集めて、急速に店舗を拡大している。客層とサービス内容を絞り込み、シャンプーロボットや券売機を活用した部分的な無人化で、新たな顧客体験を提供することに成功した。ポイントは、省人化による早さと安さを同時に実現したことだ。
カットと髪染めに絞り込む
スタッフが客の頭部にカバーをかぶせてスイッチを押すとシャンプーロボットによる自動洗髪が始まった。窓際に目を移すと、客が自分でドライヤーを使い、ヘアスタイルを整えている。
美容室チェーンを300店舗以上展開するアルテ サロン ホールディングス(横浜市)のチョキペタの店内風景だ。同店は、伸びた分の髪のカットと髪染めのメンテナンスサービスを提供する美容院で、メインターゲットは、短時間と低価格を求める40代後半~60代の主婦を中心とした女性に設定している。普通の総合美容室でカットと髪染めをすると2時間ほどかかり、料金は7000円をほぼ上回る。「これでは忙しい女性は総合美容院をなかなか訪れない」と考えたアルテ サロン ホールディングスのグループ会社C&P(横浜市)の置塩圭太社長が、ターゲットとなる客層に合わせてサービスメニューを絞ることで、低価格の実現を目指した。
1号店をオープンした2011年7月以降、順調に店舗を増やしている。現在、グループ会社のC&Pが関東に55店舗、同じくニューヨーク・ニューヨーク(京都市)が関西10店舗を展開し、19年度の売り上げは、両社の合計で15億円に達した。
チョキペタは、従来の総合美容院と違い、サービスメニューをカットと髪染めに絞り込んだ点に特徴がある。さらに髪のカットなどどうしても人間がやらなければならない作業はそのまま残す一方、ロボットなどの機械を導入し、一部をセルフサービスにすることでスタッフの作業を減らして省人化を達成。これによって客の滞在時間も大幅に短縮した。カットと髪染めをした場合の平均滞在時間は、グループの総合美容院「Ash」では2時間、チョキペタでは70分まで短くなる。また、出店場所にはスーパーなどの商業施設を多く選んでいるため、待ち時間に買い物を済ませることも可能。こうした戦略で、忙しい主婦を中心とした女性の心をつかむことに成功した。
サービスの流れはこうだ。予約は受け付けていないため、客はまず受付機で番号札を受け取る。次に、券売機で希望するサービスのチケットを購入する。バッグなどを持っている場合は、備え付けのロッカーに自分で入れて施錠する。サービスは、カット(1300円、税込み、以下同じ)、前髪カット(500円)、根元染め(根元2センチまで、1900円)、白髪染め(全体、2900円)などに細分化されていて分かりやすい。
先客がいる場合、ウェイティングスペースで、雑誌やメニュー表などを見ながら待機する。自分の順番が来たら、スタッフによるカットやカラーの施術を受ける。ここは通常の美容院と変わらない。施術が終わったら、冒頭で紹介したロボットによるオートシャンプーを受ける洗髪台に移動(カットのみの場合、シャンプーは別料金)。洗髪後はスタッフがドライヤーで乾かす(カラーのみの場合、セルフ)。ヘアスタイルのセットはセルフだ。
機械やセルフサービスによる省人化の効果は大きい。「通常の美容院では、予約制なので入り口付近に受け付けと精算を担当するスタッフが1人必要。さらにシャンプーが2台あり、それぞれにスタッフが付く。チョキペタでは、これらを機械化しているのでスタッフを3人減らせて、その分の人件費を削減できる」と置塩社長は説明する。
総合美容院では、まずどんな髪形にするかを客と相談するところから始まり、カット、シャンプー、マッサージ、スタイリングのフルサービスを提供する。美容師のスキルが高く、流行のヘアスタイルにも対応できるので、ファッションに敏感な若者などが多く利用する。手間のかかる分、客単価も高い。グループの総合美容院であるAshの場合、客単価は7700円だ。一方、人件費を削減したり、メニューを細分化したりして、チョキペタは客単価を2200円とかなり安く抑えた。この安さが、物の値段にシビアな主婦に支持されている。
作業負担を減らしてシニアでも働きやすく
客単価が安価な分、売り上げを確保するには、客数を増やす必要がある。現在、チョキペタ1店舗の客数は1日30人強。席数は通常6席なので、5~6回転する計算だ。同グループの総合美容院では3回転ほどなので、チョキペタの客の回転数はかなり多い。置塩社長はさらに、「スタッフの技術向上により施術時間を短縮し、10回転まで増やしたい」と話す。
チョキペタの仕組みが優れている点は、客に新たな体験を提供するだけでなく、働き手にもメリットをもたらしているところにある。他の業界と同様に、美容業界でも人手不足は深刻だ。それでもチョキペタが店舗数を急速に増やせるのは、「休眠美容師」を積極採用できるからだ。
美容師になるのは若い女性が比較的多く、結婚や出産により離職する割合が多い。また、低賃金や立ったまま長時間働かなければならないといった問題で他業界へ転職するケースも多いといわれる。そのため、美容師の免許を持っていながら働いていない「休眠美容師」は75万人以上いるとされる。
しかも、しばらく現場を離れていた美容師は、技術面で不安を抱えており、客から流行の髪形を希望されても応えるのがむずかしい。その点、チョキペタでは伸びた髪を2、3センチ切って整える施術なので、ハードルは低く、休眠美容師が職場復帰しやすいのだ。
機械化によって、スタッフの作業負担を減らしていることも人材採用に好影響を与えている。特に洗髪作業は前かがみの姿勢で客の頭を抱える重労働だ。シャンプーロボットを導入したことで、「体力のないシニア美容師でも活躍できるようになった。券売機の導入でスタッフが現金を扱う必要がなくなったこともストレスを減らしている」と置塩社長は語る。
チョキペタでは、採用後に技術レベルをチェックするほか、ブランクが長いスタッフは、まず髪染め作業のみを担当し、その間に社内講習を受けて技術を再習得できるようにしている。20年度からは社内カット講習の回数を倍増させ、スタッフの早期育成にも取り組む計画だ。
チョキペタは、客に提供する機能を部分的に無人化した店舗をつくることで、利用客への新しい体験の提供と、省人化によるコスト削減、それに働き手が働きやすい環境の整備を同時に実現した。この強みを生かし、23年に100店まで増やす考えだ。
(日経クロストレンド 太田憲一郎)
[日経クロストレンド 2020年4月9日の記事を再構成]
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