日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/4/28
イラスト:三島由美子

レム睡眠とノンレム睡眠はこのように時刻によって縄張りを決めているのだが、前半と後半でキッチリ“棲み分け”ているわけではない。レム睡眠は睡眠の前半、まだノンレム睡眠の勢いが強い時間帯から約90分周期で出現する。睡眠前半期のレム睡眠は持続時間が短いなど勢いは乏しいが、中高年はこのタイミング(入眠後1時間半や3時間後など)で中途覚醒をしやすく、迷惑を被っている患者も多い。

実はレム睡眠とノンレム睡眠がモザイク状に出現する理由はよく分かっていない。そもそもノンレム睡眠の最中にレム睡眠が“侵入”しているのではなく、順番が逆なのかもしれない。睡眠の進化はレム睡眠から始まり、大脳皮質が発達するにつれてノンレム睡眠が進化したという説がある。

もともとはレム睡眠が夜間全体にシマを張っていた。捕食動物のいる生物にとって眠り続けるのは命の危険を伴う。そのため外敵から身を守るためにレム睡眠は断続的になったのだろう。そこに、新興勢力であるノンレム睡眠が登場し、レム睡眠の隙間に入り込んだ。長い抗争の後、ノンレム睡眠は夜の前半を中心に縄張りを拡げ、古参のレム睡眠を睡眠後半に押しやった…といった物語があったのかもしれない。

ちなみにノンレム睡眠は時刻指定ではないので、例えば夜勤や徹夜をして明け方から寝れば「砂時計」はひっくり返され、直後から深いノンレム睡眠が出現する。

ただし、このような不規則な寝方をすると「腕時計」と「砂時計」の競合が生じる。寝入りばなにレム睡眠が挿入してきて夢見が多かったり、熟眠感が減ったりする。夜勤明けの睡眠の質が良くないと訴える人が多いが、ある意味で仕方が無い生体反応であると言える。レム睡眠を責めるわけにはいかないだろう。だってそもそも彼らの縄張りなのだから。

心地よいまどろみ夢を見たいならば、規則正しい睡眠リズムが必須なのである。

三島和夫
 秋田県生まれ。医学博士。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、日経BP社)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。

(日経ナショナル ジオグラフィック社)

[Webナショジオ 2020年2月16日付の記事を再構成]