新型コロナで増える食料廃棄 貧困者には届かぬ米国
米国では毎年、食品の40%が廃棄されている。重さにすると約6300万トンだ。だが、新型コロナ問題に端を発する食品の買いだめやレストランの休業によって、この廃棄率は高まると、食品ロスの専門家は言う。
米国で最も多く食品を廃棄しているのは一般家庭だ。冷蔵庫の食品は日が経つにつれ鮮度が下がり、残り物は隅に追いやられ、やがて廃棄される。不安になって買いだめした消費者も、やがて食べきれないほど買ってしまったことに気づくかもしれない。
サンフランシスコで廃棄物処理を行う企業「Recology」のロバート・リード氏は、「家で料理をする人が増えており、一戸建てやアパートから出る生ゴミの量は増加しています」と話す。ニューヨーク市でも、ここ2週間の生ゴミ回収量は増加傾向にある。
レストランや農家での廃棄物はどうなる
レストランはどうだろう。コロナウイルスが広がる前、米国の食費の半分は外食費だった。現在は、店舗休業の影響で、レストランの食品廃棄量は大きく減少している。しかし、テイクアウトのみで営業する店が増えれば、廃棄量は再び増加する可能性がある。
外食産業の廃棄食品を減らす技術を開発している企業「LeanPath(リーンパス)」の創業者であるアンドリュー・シャクマン氏は、「今は転換期です。販売量が減ると、一食あたりの食品廃棄量は増える傾向にあります。そのため、部分的に営業しているような店では、一食あたりの廃棄量が多くなると考えています」
農業はどうだろう。農業では、平時でも収穫の半分ほどは畑に残される。最大の理由は作物の見栄えだ。しかし、さらに多くの作物が収穫されない事態になるかもしれない。米国は現在、労働者の入国ビザを制限しているため、20万人におよぶ季節労働者がやってくるかどうかは不透明だ。農業労働者は狭い場所で密集して生活することが多いので、新型コロナウイルスへの感染も懸念される。労働者がやってきたとしても、感染すれば働くことはできない。
レストランや学校、農家直販の市場などが閉鎖されていることで、傷みやすい食品の販路も少なくなり、農業従事者は供給過多に苦しんでいる。
葉もの類などの傷みやすい作物では、新しい販売ルートを見つけるのは困難だ。米ファーマーズマーケット連盟のベン・フェルドマン氏は、次のように話している。「農業従事者は、何カ月も前、作物を植えるときに販売ルートを計画します。市場が閉鎖され、他の販路に回せないとなると、作物は畑で腐るしかなくなります」
家庭でできること、レストランにできること
新型コロナウイルスの影響で、流通網は混乱している。その中でできることは何だろう。家庭では、食品の保存法を知ることが大切だ。
「食品を長持ちさせる方法を学ぶには、まさにうってつけのときです」と、企業や自治体と連携して食品ロスを減らす活動を行っている団体「ReFED(リフェド)」の理事ダナ・ガンダース氏は語る。「凍らせることは、食品ロスを減らす効果的な方法です。食品に日付ラベルを付けたり、まとめて料理をつくりおく方法をきちんと理解しておきましょう」。たとえば、「賞味期限」が過ぎても食品を捨てなければならない理由はない。
レストラン経営者は、別の方法で食材の無駄を減らそうとしている。単に休業する店がほとんどだが、テイクアウト販売に移行した店もある。さらに何とかして食品ロスを減らそうと、一時解雇された店員や一般の人々に無償で食品を提供した店もある。フィラデルフィアのシーフード店「オイスターハウス」は、休業に入る前にすべての殻付きカキを無償配布した。
ワシントン州の農場直送レストラン「ハーブファーム」では、キッチンを改装して医療従事者向けの弁当を作っている。ニューヨーク市では、約30店のレストランが非営利団体「Rethink(リシンンク)」から4万ドルの交付金を受け、店員への支払いやテイクアウトの食品作りを行っている。他のレストランから余った食材を集めて作った食品は、3ドルの寄付金と引き換えに提供している。
貧困者への食料供給が混乱
大量の食品を引き取り、貧困者などに提供する「フードバンク」は今、より確実に食品を入手する方法を必要としている。新型コロナウイルスが蔓延する前は、スーパーマーケットや食品会社が余った食品を提供していた。しかし、食料品店が大盛況で、買いだめによる記録的な販売が続いている今、フードバンクに寄付される食品は減少中だ。たくさんの人が職を失う中で、食料不安は深刻化している。
この問題を解消するため、米連邦議会は緊急経済対策に4億5000万ドルの予算を盛り込み、農務省が食料を購入してフードバンクに提供できるようにした。レストランからのフードバンクへの寄付も増加している。半分以上の州で、知事がレストランの休業やテイクアウト販売への移行を要請したためだ。
フードバンクにとっての困難は、食品を手に入れることだけではない。社会福祉団体は、昔から食事の準備や提供をボランティアに頼っていることが多い。サービスの需要は増えているにもかかわらず、ボランティアは高齢者が多く、新型コロナウイルスの感染症を恐れて活動を控えている。
そのうえ、高齢者福祉施設や貧困者向けの食料提供施設なども、人が集まるという理由で閉鎖されている。福祉団体は大慌てで食料の配達方法を探し、解雇された労働者やタクシー運転手、食品配達会社などを頼るようになっている。カリフォルニア・フードバンク協会は、弁当の盛り付けや配達の支援などに2万人の州兵を動員するように州知事に要請した。
必要な食料を必要な場所へ
業者やレストランなどから、余った料理を必要な場所に運ぶ作業も簡単ではない。「リフェドは、小回りの利くフードレスキュー団体と連携しています」とガンダース氏は話す。「そういった団体は、加工食品の調達量を増やしつつ、テクノロジーを使って提供者と受益者をもっと効率的につなぐ方法を探そうとしています」
その際に重要な役割を果たすのが、オンラインのアプリだ。例えば、ミズーリ州には、レストランやケータリング業者が提供可能な食品を登録すると、フードバンクに届けるドライバーをマッチングするサービスがある。同様のサービスはサンフランシスコやニューヨークにもある。
外出制限が何週間も続き、食料(やトイレットペーパー)の供給不安が解消すれば、買いだめも収まるかもしれない。オンライン食品配達プラットフォームの利用が徐々に増えることも考えられる。
ガンダース氏は、そのような行動の変化は、食品ロスの問題に大きな影響を与える可能性があると考えている。利用者が2~3日分だけ注文するようになれば、オンラインの小売店は正確に注文できるようになり、食品ロスの減少につながるかもしれない。
しかし、それはまだ遠い先のことで、今のところ事態は急速に変化している。「この状況は始まったばかりです」とガンダース氏は言う。「今後数週間は混乱が続き、その後の2カ月とはまったく違うものになるはずです」
(文 ELIZABETH ROYTE、訳 鈴木和博、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2020年4月4日付]
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