動物は数を数えられる 人間に劣らない能力を持つ理由
自分がリスになったと想像してみよう。そのリスが洞窟を見つけた。中は広々として快適そうだ。だが、2頭の大きなクマが先に入っていくのが見えた。数分後、1頭が出てきた。洞窟は今、自分にとって安全だろうか。これは、多くの動物が日々直面する計算問題だ。
敵を避ける時だけではない。恋人探しや餌探し、移動する時まで、数を理解する能力は様々な問題解決に役立つ。
ドイツ、テュービンゲン大学の神経生物学者アンドレアス・ニーダー氏は、動物の「数える」能力を研究したあらゆる過去の論文を集めて分析した結果、ハチ、鳥、オオカミなど多くの動物たちが、数を理解して、それを基に行動していることを明らかにした。これは、動物なりの数を数える行為であると言える。研究成果は2020年3月30日付の学術誌に発表された。
論文では、この能力が動物たちの生き残りに役立つことも示唆された。動物の認知能力に関する研究は近年急速に進んでいるが、今回の研究によって、またひとつ新たな知見が加わった。
「数というと、高度に発達した数学的能力や天才というイメージに結び付けられやすいためか、人間特有の能力だと考えられてきました。けれどニーダー氏の研究は、基本的な数える能力が動物の世界でもかなり広範囲に見られ、生存に有利な能力であることを示しています」と、英クイーン・メアリー大学の行動生態学者ラース・チッカ氏は語る。氏は、今回の研究には参加していない。
ほぼすべての動物が持つ能力
ニーダー氏は、様々な動物たちが数をどのように理解しているかを調べるため、関連する150本以上の論文を調べた。結果、「ほぼすべての種に、数に関する能力が備わっている」と結論付けた。
そして当然のことながら、この能力は餌探しに最もよく発揮されるという。
例えば、チョウセンスズカエルを使った実験では、カエルがおおよその数の違いを理解できるという結論が出された。カエルの餌であるミールワーム(チャイロコメノゴミムシダマシの幼虫)の幼虫を数匹ずつひとかたまりにして与えたところ、3匹のかたまりと4匹のかたまりでは違いが気にならないようだったが、3匹と6匹、または4匹と8匹のかたまりを同時に与えられた時には、決まって数が多い方のかたまりを選んでいた。
セイヨウミツバチも、巣から花畑までの間に目印が何個あるかを覚えていて、それを頼りに巣に戻ることができる。サハラサバクアリは、餌を探しに出かけるとき、歩数を検知する何らかのメカニズムによって、巣からどれだけ遠く離れたかを知る。
ハイイロオオカミは、自分の群れに何匹の仲間がいるかによって、狙う獲物を決めている。例えば、アメリカアカシカやヘラジカを狩るには6~8匹の仲間で十分だが、バイソンを狩るには9~13匹が必要だ。
獲物となる動物の方も、身を守るため数に頼る。アメリカアカシカは、オオカミとの遭遇を避けるために少数で行動するが、自分が犠牲になる確率を下げるために大きな群れになることもある。「みんなでいれば怖くない」という戦略である。
闘争か、逃走か
多くの動物は、縄張り争いやメスをめぐって争う前に、相手の力や相対的な数を評価する。メスのアフリカライオンの群れは、近くにいる別の群れの唸り声を聞いて、戦うかどうかを判断する。タンザニアにあるセレンゲティ国立公園で過去に行われた実験では、メスの群れに、録音した別グループのメス1頭の唸り声を聞かせたところ、その群れは侵入者と戦う態勢に入ったという。
しかし、3頭以上の唸り声を聞かされた群れは躊躇(ちゅうちょ)した。ライオンたちが戦うかどうかを予測するには、互いの集団にそれぞれおとなのメスが何頭いるかを数えればいいということだ。
「ライオンたちが、日常的に直面する状況において、自分たちの群れに何頭いるかを数えているのは明らかです」と、ニーダー氏は言う。「数の違いを判別する能力は、生存と繁殖に有利に働いているのでしょう」
テリルリハインコの奇妙な習性
米テキサス大学リオグランデバレー校の鳥類学者カール・バーグ氏も同意する。
バーグ氏は、南米ベネズエラでテリルリハインコの若いメスを観察した際、繁殖の季節が終わるとメスたちはその場を離れ、オスたちが残った。だが、逆のことが起きた年もあった。
「メスが留まるか離れるかは、餌の量と、オスとメスの割合によります」。つまり、オスとメスがそれぞれ何羽ずついるかによるという。「そのような見積もりができるとは、本当に驚きです。どうやっているのかはわかりません」
さらにバーグ氏は、「これらすべての研究で重要なのは、数を数える能力が『適応度』、つまりある個体が一生でどれだけ子孫を残せるかの度合いと、どう関係しているかを知ることです」と指摘する。
ニーダー氏は、同様の研究をさらに集めたいと願っているが、実際に実験をやるのは難しく、時間もかかる。「本当に意味のある結果を得ようとするなら、野生で観察するしかありませんから」
(文 VIRGINIA MORELL、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2020年4月2日付]
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