英国の評論家に聞く 日本のオレンジワインお薦め5選
エンジョイ・ワイン(25)
世界的に人気が高まっているオレンジワイン。もはや単なる流行ではなく、赤、白、ロゼに次ぐ「第4のワイン」としての地位を築きつつある。日本でも、オレンジワインを造る生産者が増えてきた。「オレンジワイン 復活の軌跡を追え!」(美術出版社)を今春出版した英国出身のワイン評論家、サイモン・J・ウルフさんにオレンジワインの魅力や、お薦めの日本のオレンジワインを聞いた。
ウルフさんは「オレンジワインの一番シンプルな定義は、赤ワイン方式で造る白ワイン」と語る。
説明を加えると、黒ブドウを皮ごと発酵槽に入れ発酵させたのが赤ワイン。皮の色素と渋み成分がワインに移り、ワインの色が赤くなり、赤ワイン特有の渋みのある味わいになる。一方、最初に白ブドウを絞って皮を除去し、果汁だけを発酵させたのが白ワイン。色が透明で、渋みをほぼ感じさせない果汁由来のフルーティーな香り漂うワインとなる。
オレンジワインは白ブドウを赤ワインと同様に皮ごと発酵させる。白ブドウと言っても、皮に色素はあるので、ワインに溶け込むとオレンジ色になる。渋み成分も移行するため、赤ワインのような渋みや奥行きを感じる味わいになる。
ウルフさんによれば、精巧なブドウ圧搾機などがなかった昔は、世界の多くの地域でオレンジワインが造られていた。皮ごと発酵させた方が、絞って発酵させるよりずっと簡単で、歩留まりも高いからだ。
ところが、戦後、醸造技術の進歩やマーケティング重視の風潮の高まりなどを受けて、白ワインの造り方が大きく変化。そのあおりを受け、オレンジワインは市場からほぼ姿を消した。
復活の兆しが見え始めたのは20世紀末。「ブドウの個性や魅力を最大限に引き出せるかが醸造家の腕の見せどころなのに、多様な香気成分が凝縮された皮を取り除いて発酵させたら、ブドウの魅力を十分に伝えることはできない。そう考える醸造家の一団が、北イタリアやスロベニアに現れ、彼らの祖父の代の造り方を復活させた」とウルフさんは話す。
彼らの思想は、オレンジワインで世界的に有名なジョージアの生産者にも影響を与えた。ジョージアのオレンジワインは、クヴェヴリと呼ぶ独特の土器を使った醸造法で、ユネスコの世界遺産にも登録されている。しかし、ジョージアのオレンジワインは、もっぱら自家消費や特別な日に飲むためのものだった。商業生産し始めたのは、2000年ごろに当地を訪れた北イタリアの生産者に刺激を受けてからという。
ウルフさんは、オレンジワインをシェリー酒に例える。「シェリーは、赤ワインや白ワインに比べ市場規模は小さいが、ファッション(流行)だと言う人は誰もいない。ワインの1分野として認知されているからだ」と説明する。
そんなオレンジワインの魅力の1つとしてウルフさんが挙げるのが、料理との相性だ。「オレンジワインは白ワインのフレッシュさと赤ワインの複雑性を兼ね備えており、さっぱりとした前菜にも、脂肪分の多い肉料理にも合う。合わせられる料理の幅が広いので、1本あればコース料理にも対応できる」と話す。
もう1つの魅力は、オレンジワインにはナチュラルワインの手法で造られたものが多いことだ。ナチュラルワインとは、有機農法で育てたブドウを使い、市販の培養酵母でなく天然酵母で発酵させ、亜硫酸塩を添加しない、いわば昔ながらのワイン。オレンジワインと同様、世界的に人気が高まっている。
世界各地のオレンジワインを飲んできたウルフさんは、日本のオレンジワインについて「日本固有の品種である甲州を使い、欧州の流れとは別に、独自のものを造ってきた歴史もある」と高く評価する。甲州は、白ブドウの中では果皮の色が濃く、鮮やかなオレンジ色が出やすい品種だ。甲州以外でも、デラウェアなど様々なブドウからオレンジワインが造られている。今回は、ウルフさんが飲んだことのある日本のオレンジワインからおすすめをコメントとともに、何本か選んでもらった。(価格は希望小売価格などを参考にした目安価格、完売済みの可能性もあり)
「デラ・オレンジ 2018 ヒトミワイナリー」2200円
「デラ」とはデラウェア種のこと。本来は生食用だが、最近は、あえてデラウェアでワインを造る生産者も増えている。グラスに鼻を近づければ一瞬でそれとわかる香りが特徴だ。「日本のオレンジワインの中では一番気に入っているワイン。アロマティックなデラウェア種の特徴が適度に出ていて、味わいは非常にジューシー。タンニン(渋み)とフレッシュな酸味のバランスも素晴らしい」
「甲州F.O.S. 2017 ココ・ファーム・ワイナリー」3000円
F.O.S.は「果皮と一緒に発酵させた」という意味で、つまり、オレンジワインのこと。「タンニンがしっかりしているので、ストラクチャー(骨格)を感じる。スパイスやスモーキーなニュアンスもあり、味わいに深みを感じる」
「デラウェア ペリキュレール バイ サトウ 2018 清澄白河フジマル醸造所」2800円
ニュージーランドを拠点にワイン造りをしている佐藤嘉晃・ 恭子夫妻が、日本で仕込んだオレンジワイン。「非常にエレガントでブルゴーニュワインを彷彿(ほうふつ)とさせるようなスタイル。なめらかな舌触りで、食事と合いそう」
「スキンダイブ 2018 ドメーヌ・ショオ」5500円
ドイツ系品種のケルナーで造ったオレンジワイン。「いきいきとした果実味が感じられる。揮発酸の香りがややするが、それがアクセントになっており、非常に個性的なワイン」。酢の香りのする揮発酸は、一般的にはワインの欠陥臭と言われているが、ナチュラルワインの中には揮発酸をまとったものも多く、その香りを好むワイン愛好家も多い。
「スプマンテ 2018 ファットリア・アル・フィオーレ」3700円
珍しいスパークリングワインのオレンジワイン。シャルドネとネオマスカット、デラウェアの3品種をブレンドしてある。「口に含んだ瞬間の甘みや混じり気のないフルーツ感が素晴らしい。のど越しもスムーズで、楽しく飲める」
(ライター 猪瀬聖、写真 Yosuke Owashi)
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