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30年ぶりの新型 ソニープロ向けヘッドホン(上)

「年の差30」最新AV機器探訪

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NIKKEI STYLE

ソニーが新たなスタジオモニターヘッドホン「MDR-M1ST」を2019年に発売した。ソニーがスタジオ用モニターヘッドホンの新作を発売するのは、1989年の登場から数多くのスタジオで採用されてきた定番モデル「MDR-CD900ST」以来、30年ぶりとなる。MDR-CD900STの後継機として紹介されることも多いMDR-M1STだが、実はまったく新たなモデルとして作られたという。開発に携わった3人に、製作の背景やこだわりを、平成生まれのライターと、昭和世代のオーディオビジュアル評論家が聞いた。

「良い音」の基準としてのモニターヘッドホン

小沼理(28歳のライター) 今回は2019年ソニーが発売したモニターヘッドホンMDR-M1STの取材のため、ソニー・ミュージックスタジオ に来ています。

小原由夫(55歳のオーディオ・ビジュアル評論家) モニターヘッドホンとは、主にミュージシャンがスタジオなどで音楽制作のために使うヘッドホン。市販のものと違って音の一部を強調するような味付けがなく、原音に忠実なのが特徴です。30年近く前にソニーが発売したMDR-CD900STというモニターヘッドホンがありますが、これは日本の多くのスタジオで使われているヘッドホン。その意味では、MDR-CD900STがミュージシャンの音作りの基準になっていると言えます。そしてそのソニーが新たなモニターヘッドホンを発売したというので、取材に来たわけです。

小沼 今日は実際にMDR-M1STの製作に携わった3人の方にお話をうかがいます。

松尾 ソニー・ミュージックソリューションズ ソニー・ミュージックスタジオ レコーディングエンジニアの松尾順二です。私はエンジニアの代表として、音作りや装着感など、実際に製品を使用するスタジオ側の意見を取りまとめています。

潮見 ソニーホームエンタテインメント&サウンドプロダクツの潮見俊輔です。私は「アコースティックエンジニア」と呼ばれていて、コンシューマーも含めたヘッドホンの設計を入社以来10年以上担当しています。MDR-M1STでは音響設計を担当しました。

徳重 ソニーホームエンタテインメント&サウンドプロダクツの徳重賢二です。私はプロジェクトマネージャーとして、今回のMDR-M1STの商品設計を担当しました。ソニーミュージックとの協業や新しいモニターヘッドホンの製作という貴重な機会に関わることができてうれしいです。

小原 2社が一緒にヘッドホンを作ることは珍しいんですね。

潮見 意見交換することはありますが、基本的にコンシューマー向けの製品は弊社単独で設計しています。 ただ、今回はスタジオで使われることを前提にしているので、録音エンジニアやミュージシャンの意見を尊重して設計しました。

完全な別モデルとして、30年以上使われるものを

小沼 今回、MDR-M1STは従来のモニターヘッドホンMDR-CD900STの後継機として作られたわけですが……。

松尾 あ、これは後継機ではないんですよ。完全な別ラインのモデルという位置づけです。

小沼 えっ、そうなんですか! てっきり後継機だと思っていました。

潮見 実際に開発当初は、MDR-M1STはMDR-CD900STのハイレゾ版という立ち位置でした。そのため、まずはMDR-CD900STを改造・改良することろから始めました。音もMDR-CD900STをベースにして、上の帯域を伸ばすような試作をしていたんですよ。

松尾 そう。ただ、それを聴いた時に「何の意味があるんだろう」と思ってしまって。MDR-CD900STと同じ音のテイストであれば、MDR-CD900STがあるので要らない。せっかくだったら、全く新しく作った方がいいんじゃないかと。

潮見 そこで一旦仕切り直し、改めてコンセプトを固め直しました。

松尾 MDR-CD900STは発売から30年の間に、録音制作の現場やスタジオ機材などさまざまな変化がありました。加えて、近年はハイレゾも一般的に普及しつつあり、コンシューマー向けのヘッドホンもすごく進化しています。もし現在の技術を使って新たにスタジオ用モニターヘッドホンを作ったら、もっと良いものができるのではないかと思いはじめました。

潮見 MDR-CD900STのようにスタンダードなモニターヘッドホンになることを目指しつつ、従来機に引っ張られないようイチから音も機構も設計し直しました。結果、別の系譜として、今の時代の新しいモニターヘッドホンとしてMDR-M1STが誕生しました。

徳重 そのため、今後もMDR-CD900STは販売を継続する予定です。これまでずっと「基準器」として活躍していたヘッドホンですし、業界的にもまだまだ需要があるので。

小沼 MDR-CD900STの発売が平成元年の1989年、MDR-M1STは令和元年の2019年。これは狙ったのですか。

潮見 確かに計ったようなタイミングですが、これはたまたまで、プロジェクトがはじまったのはもっと前です。まずは、自由研究のように純粋に技術検討として音作りの共同研究を始めたのですが、結果的に良いものができたので製品化に進めることを決めました。

小沼 MDR-CD900STが30年以上使われていることを考えると、新たなモニターヘッドホンを作るのはプレッシャーでもありますね。

松尾 そうですね。僕たちも製作の過程で改めてMDR-CD900STをじっくり使ってみて、「こんなに良いヘッドホンだったのか」と何度も思いましたから。先輩が作ったヘッドホンとして、とてもリスペクトしています。

徳重 新たに作るにあたって、MDR-M1STも30年、40年と使われるものを目指したいと思っていました。そのために、材料選びにもこだわっています。通常のコンシューマー向け製品は2~3年でモデルチェンジする。でも、今回は安定して作り続けられるものでなければならない。そのため最先端のものを使うというよりは、この30年間で実績を積んだ、確実な材料を使うようにしています。

音の忠実な再現と、「聴いていてぐっとくること」を大事に

小沼 小原さんからみて、MDR-M1STはどんなヘッドホンでしょうか?

小原 やはりプロの音だなというか、遊びがない音だと感じました。コンシューマー用のヘッドホンだと、もう少し響きや味付けがありますが、これはかなりフラットです。

松尾 変な色づけはしないでくれとは伝えましたね。それをされてしまうと、ミックス時に支障が出てしまうので。

小原 それから、当時と今の音楽では、例えば低音のスピード感や分解能も違っていて、30年前は出せなかったような音を今は鳴らすことができます。こうした音にも対応できるのがMDR-M1STなのかなと。松尾さんにお聞きしたいのですが、率直にどんな音を目指していたのでしょう?

松尾 まずはスタジオの音を正確に再現できること。それでいて、聴いた時にぐっとくる音であることですね。

小原 ただ正確なだけでは駄目で、メートル原器の新しいものを作っているわけではないと。

松尾 スタジオでミュージシャンが奏でた音を、ヘッドホンで聴いたときに「こんなんじゃないんだけど」と言われるようではいけないわけです。でも、正確なだけで「全然面白くないね」と言われてもいけない。聴いていてぐっとこないと。

潮見 この「ぐっとくる」というのは、いわゆるハイファイともまた違うんですよね。ミュージシャンが楽しんでいたり、感情を込めたりしながら演奏しているノリがあらわれるようなもの、というか。

松尾 「音楽を聴く楽しさがなかったら、なんのためのヘッドホンなの?」と思っていましたから。まあ、「もっとぐっとくる音に!」とか抽象的なことばかり言うので、設計側は苦労したと思いますけどね(笑)。

潮見 「このへんにキラキラがほしい」みたいな指示を受けたことも多々ありました(笑)。

松尾 低音が膨らんでいるとテンポが遅く聞こえたり、リバーブ感が強いと音像が遠く聞こえたりといったことが起こります。それをエンジニアとしての感覚を用いつつ、「ぎゃーん」「キラキラ」など擬音化して伝えているんです(笑)。

潮見 それから、ボリュームの大小でひずみ感が変わらないことを強く求められました。実際に歪(ひずみ)率の計測も行いましたが大きな違いが出てこなかったため、これは数値の話ではなく音の印象のことなのだなと理解しました。エモーショナルな表現で伝えられるのは数字には明確に出ない部分ですが、松尾さんの指示を受けて修正するとたしかに音が良くなるので面白かったです。

小沼 鳴っている音に忠実でありながら、エモーショナルでもある。その両立は難しそうだなあ。

潮見 「音楽の大事な要素ってなんだろう?」と悩んで、夜中に松尾さんに電話をかけたこともありましたね(笑)。

松尾 そのときは「音の大事な要素の8割は中域にある」と話したよね。中域にはピアノやボーカル、ギターなど、メインの音がたくさん集まってきます。そこが分離してきれいに聞こえることが、今回目指している音を作るときの目印になると伝えたことを覚えていますね。

機能美が詰まったデザイン設計

小原 見た目はMDR-CD900STを踏襲していますよね。たとえば、ハウジング部分のラベルの赤いラインや、LRの青と赤の表示など。

徳重 やっぱりこの黒のボディーに赤いラインというのはキャッチーなんですよね。仮にソニーのロゴが見えなくても、うちのだとわかります。かといってまったく同じでもいけないので、ハウジングのラベルは赤い線のイメージは残しつつ、繊細さを表現しながら新しさを出しました。他にも、「SONY」のロゴがデボス加工の色入れになっていたり、側面のダイヤカットは残しながら銀ではなく黒にしたりという変化をつけています。

松尾 LRが青と赤なのは、スタジオで使用する際のこだわりですね。LRを間違って装着していたときに、見て確認できるようにするためです。

潮見 ここまではっきりわかるようなデザインは、モニターヘッドホンならではだと思います。

◇ ◇ ◇

モニターヘッドホンの金字塔となっているMDR-CD900STにリスペクトを示しつつ、時代にあわせた新たなスタンダードを求めて生まれたMDR-M1ST。開発した3人の口調からは、「自由研究のよう」にはじまり、月日を重ねて完成させた同作への並々ならぬ愛情が感じられた。

プロの仕事道具としての使用に堪える音の再現性や装着感を達成し、かつ、聴いていて「ぐっとくる音」であること。それらを両立させるのは至難の業だっただろう。次回はそんなMDR-M1ST開発の裏話や、細部まで行き届いたこだわりについてうかがう。

小原由夫
1964年生まれのオーディオ・ビジュアル評論家。自宅の30畳の視聴室に200インチのスクリーンを設置する一方で、6000枚以上のレコードを所持、アナログオーディオ再生にもこだわる。MDR-M1STで聴いた音楽は「ドナルド・フェイゲン/サンケン・コンドズ」。
小沼理
1992年生まれのライター・編集者。最近はSpotifyのプレイリストで新しい音楽を探し、Apple Musicで気に入ったアーティストを聴く二刀流。MDR-M1STで聴いた音楽は「Chara+YUKI/echo」。

(写真 吉村永)

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