教師のヒントが教育効果損なう 必要なのは学びの幅デイビッド・エプスタイン『RANGE(レンジ) 知識の幅が最強の武器になる』より

写真はイメージ =PIXTA
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この1カ月ほどで在宅勤務をする人が一気に増えた。時間的な余裕を生かして、この機に語学や資格の勉強に取り組む人もいるだろう。語学や資格の学習者の悩みは、何度覚えてもすぐに忘れてしまうことだ。「どうしたら短時間で効率的に学習できるか」と多くの人が考える。ところが、3月に刊行された『RANGE(レンジ) 知識の幅が最強の武器になる』(東方雅美訳、日経BP)の著者でジャーナリストのデイビッド・エプスタイン氏は、「効率的に学ぼうとするから、身につかない」という。本書の抜粋から、「真に身につく学習法」を見ていこう。

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教師のヒントが裏目に出る

まず、中学校の数学の授業を思い浮かべてほしい。生徒が黒板の前で、問題を解けずに悩んでいる。教師は生徒が正解に近づけるようにヒントを出す。とても自然な光景に見える。ところが、教師のこの行為が、生徒の学習を妨げてしまっている可能性がある。

 正しい答えを出させようと生徒にヒントを与えることは、賢明で、便利な方法だ。しかし、この便利さが、幅広く活用できる概念を学ぼうとする時に裏目に出ることがある。アメリカでは、教師が生徒に投げかける質問のおよそ五つに一つが、最初は「関係を認識する」質問として始まる。しかし、生徒が教師からヒントを引き出して問題を解き始める頃には、「関係を認識する」問題ではなくなっている。
 どの国の先生も、時々この罠にはまる。だが、数学の成績のよい国では、「関係を認識する」問題の多くが、クラス全体がそれに取り組んでいる間も生き残る。(第4章「速く学ぶか、ゆっくり学ぶか」 117ページ)

アメリカ、アジア、ヨーロッパで録画された何百もの授業の様子を分析した調査があり、それによると、教師は主に二つのタイプの問題を用いていたという。一つは、習ったばかりのことを試す「解法を練習する問題」(多角形の内角の和の公式など)、もう一つは、「関係を認識する問題」だ。後者は、なぜその公式が機能するのか、内角の和の公式がどんな多角形でも使えるのか、教師は問題を出して生徒に考えてもらう。

生徒が理解できずに悩んでいる時、教師の多くはそれを深掘りさせるのではなく、ヒントを与えて、「関係を認識する問題」を実質的に「解法を用いる問題」に変えてしまう。その結果、「真の理解」が妨げられるというのだ。

 (シカゴ大学教授で学習について研究している)リンゼー・リッチランドは、学年の低い生徒に「関係を認識する」問題を家に持ち帰らせると、「親が『もっと簡単で速い方法があるから、教えてあげる』と言う」と話す。先生がすでにその問題を「解法を用いる」問題に変えていなかった場合、親は善意でそうしてしまう。子どもが困っているのを放っておけず、また、大人は早く簡単に理解したいと考えるからだ。だが、耐久性があり(長持ちし)、柔軟な(応用範囲の広い)学びのためには、速くて簡単なやり方は、明らかに問題となる。(第4章「速く学ぶか、ゆっくり学ぶか」 120ページ)
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学習効果を飛躍的に高めるのは「望ましい困難」
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