東京大学の最難関学部は医学部医学科に進学する理科3類。1学年3000人余りの東大生のうちわずか100人程度という狭き門だ。このうち女子学生は約2割しかいない。その中から2019年のミス東大グランプリに輝いたのが上田彩瑛(うえだ・さえ)さんだ。大阪市の四天王寺高校出身。お笑いとダンスの好きな関西女子はなぜ医学部を目指したのか。

「落ち着いていきや~~」。19年11月24日、東大の駒場祭。女性のお笑い芸人ゆりやんレトリィバァのモノマネをして笑いをとった上田さん。間髪入れず、人気ガールズグループ「TWICE」にふんした格好でダンスを披露し、ミスコンの会場を沸かせた。まだ10代の理3生が下馬評を覆してグランプリを獲得した。
上田さんが育ったのは大阪市の繁華街。近所の人が気さくに話しかけてくる人情味あふれる街だ。母校の四天王寺中学・高校は関西屈指の女子の進学校だ。一方で石川佳純さんら卓球やバレーボールの五輪代表選手を輩出したスポーツ校としても知られる。
成績は学年トップを走ったが、中学時代には塾にも通わず、ダンス漬けの日々。クラシックバレーからヒップホップ調のダンスまで何でもこなす。時にはお笑いの殿堂といわれる「なんばグランド花月」(大阪市)に足を伸ばし、好きな芸人の出入りを確認して“お笑い散歩”を楽しんだ。
予防接種で突然倒れる
両親もお笑い芸人は大好きで、親子の会話も典型的なボケとツッコミ調だという。19年にM-1王者になった「ミルクボーイ」などのネタを覚え、いつも家庭は笑いに包まれていた。将来のキャリアについて両親は「好きにしたら」と干渉してこない。数学が好きなので大学は理学部に進学して研究者になろうかと思っていた。
医学部志望になるのは高校1年生の頃だ。インフルエンザの予防接種を受けた直後、突然倒れた。すぐに意識は戻り、大事に至らなかったが、「何で倒れたんやろう」と不安にかられ、カラダの仕組みに興味を持った。もともと四天王寺高校には自立心が旺盛で、医師を目指すキャリア志向の女子生徒が少なくなかった。中学時代の教師から「お前も医者を目指したら」と背中を押された。