失敗を許容する文化
イスラエルには、チャレンジを推奨し、失敗を許容する文化があります。さらに、年齢や立場に関係なく、疑問に思ったことには徹底的に議論をします。こうした考えは国防軍で磨かれます。イスラエル国民は、ユダヤ教超正統派やイスラム教、キリスト教信者以外は、高校を卒業する18歳から男子は3年、女子は約2年の兵役義務があります。
最も入るのが難しい「タルピオット」という部隊で、この考え方は特に顕著です。タルピオットでは、毎年成績優秀な高校生約1万人の中から50人を選抜し、イスラエル国防軍、ヘブライ大学、産業界が共同で「英才教育」をほどこします。
タルピオットの卒業生の多くは起業をします。まずは、自分でやってみて、失敗したとしても「挑戦が評価されて」グーグルやマイクロソフトなどの企業に入社します。そして、そこで経験を積んでまた、起業にチャレンジするのです。
起業で失敗しても、受け皿は豊富にある。アイデア、先端技術、実現するためのチー ムさえあれば、資金も集められるし、過去の失敗経験もプラスに働く。「失敗したということは、それだけ学んだということ」(コアティゴのエラン・ジグマン氏)だからだ。
(第3章 イスラエルを支える「エコシステム」の秘密 65ページ)
「7つの力」を身につける
軍隊と聞くと、上官の命令に絶対服従や軍事的な演習を想像するかもしれませんが、タルピオットでの教育は少し異なります。もちろん、軍事的な演習も行うのですが、戦場という先が見えない状態の中でどのように考え、動くべきかの訓練が徹底的に行われるのです。そのために、若いうちから最先端技術を学ばせ、責任やリーダーシップを与えます。
このように、タルピオットで身につく力は7つに分類することができます。(1)課題を見つけ、解決法を生み出すクリエーティブ思考(2)組織のなかも外でもイノベーションを生む力(3)現場の声に耳を傾ける「顧客視点」(4)協力し、迅速に成果を上げるチームワーク(5)失敗を恐れず困難に挑戦する前向きさ(6)粘り強く任務を遂行する精神力と時間管理能力(7)仲間意識・ネットワークです。これらの力は、結果として変化が大きく、先が見えない時代を生き抜くために必要な能力となっています。
著者は、本書の中で「日本の変革にイスラエルからの学びは大いに役立つはずだ」と指摘します。イスラエル企業との協働は、考え方やスピードなど、全てが違うことだらけで戸惑うことも多いでしょう。しかし、いくつかのポイントを押さえれば、お互いにメリットがある関係構築は可能で、それによって日本企業が得るものは大きいと強調します。
では、具体的にどうすればいいのか。情報はどこでも手に入るようになってきている ので、やはり直接イスラエルの人たちと接し、協働することで、彼ら・彼女らが持つエネルギーや課題に取り組む姿勢を学びとることが一番の近道だと思うに至った。
(第6章 イスラエルとの協働から日本を変える 199ページ)
イノベーションを生み出すために何が必要で、どのようにしたらよいのかヒントを教えてくれる1冊です。
◆編集者からひとこと 日本経済新聞出版社・雨宮百子
2018年の秋に著者の石倉さんと監修者のトメルさんの講演を聞いたのが、本書を作ろうと思ったキッカケです。イスラエルという国の失敗を恐れない姿勢や、イノベーションが生まれ続ける仕組みが面白く、ぜひ本にしたいと思いました。
しかし、書籍化までは困難の連続でした。言語の壁、時差、文化の違い……。ZOOMなどのツールを使ってインタビューを重ね、最終的には現地まで渡航しました。
初めて訪れたイスラエルは、11月にもかかわらず暖かく、ハイテクで、人々は活気にあふれていました。ポジティブで失敗を恐れない人々に囲まれていると、自分の可能性を感じ、日本に帰国したくなかったくらいです。
本書を通じて、少しでもイスラエルの勢いを感じていただけるとうれしいです。