この日のホリエモンは、意外にも黒いTシャツではなく「バーニーズニューヨーク」で買ったという「DKNY」の黒いポロシャツであった。思わず「今日はTシャツじゃないんですね」と言うと、「あ、そうか、今日はそういう取材だったんだ。それならTシャツを着てくればよかったな(笑)」と答えたのを覚えている。
他にはどんなブランドの黒Tシャツを持っているかと質問すると、「ルイ・ヴィトン」のTシャツを何枚か持っていて、でもそれも自宅(六本木ヒルズ)の下に店が入っているから便利なので休みの日にふらっと入って「これとこれください」と買ったもので、べつにブランドや着るものには何のポリシーもないと答えていた。
黒Tは自己主張のためのツールに
いやぁ~、今思えば、この頃のホリエモンの黒Tシャツスタイルは、いつもイッセイミヤケの紺のハイネックシャツにリーバイス501とニューバランスという「アップル」のスティーブ・ジョブズみたいに、日本でノームコアファッションの先駆けだったのかもねぇ。
しかしながら筆者が思うに、いまのホリエモンの黒Tシャツは、自らホリエモンチャンネルでも「Tシャツは自己主張するもの」と言っているが、彼にとってはファッションでなく、あくまでもSNSと同じ「俺論」を発信するためのツールなんである。
たとえば、有名なところでは、11年にライブドア事件で実刑判決が確定して東京拘置所に収監される時にモヒカン刈りのヘアスタイルで着ていた黒Tシャツ。
モノポリーゲームのキャラクターで刑務所行きを告げる「GOTOJAILおじさん」のイラストに、巨額の粉飾事件に揺れた「日本長期信用銀行」、「山一証券」、「カネボウ」、「日興コーディアル証券」、「ヤオハン」、そして「livedoor」と、各社名のロゴがプリントされていて、さらにご丁寧に社名ロゴの右上には小さく粉飾の額が入っている。
また最近ではNHKの昼の生放送番組「こごナマ」に出演した時に、襟にピースマークを付けたヒトラーに似た人物が「NOWAR」と叫んでいるイラストの黒Tシャツを着て、番組の最後に司会のアナウンサーが謝罪のコメントを出すわ、ネットでは賛否両論されて大炎上した。
まぁでも、確かにTシャツとはホリエモンのおっしゃる通り、自己主張するためのツールでもある。ファッションアイテムとして「メッセージTシャツ」というのもあるくらいで、ちなみに筆者が初めて着たメッセージTは、1990年代に流行った「キャサリンハムネット」のボディーに大きな黒文字のフォントで「NOWAR」と描かれたビッグショルダーの白Tシャツであった。これ、ビッグシルエットブームの今なら絶対またイケると思う。
彼のことが好きか嫌いかはべつとして、筆者のようなオジサンたちには理解し難いミレニアム世代にも多大な影響力のあるホリエモンである。ここはぜひとも「STAYHOME」と描いた黒Tシャツや、「マスク2枚かよ」とか描いた黒Tシャツを着て、今のこの世の中に忖度なしの石を投げ入れてもらいたいものですな。

1961年静岡生まれ。コピーライターとしてパルコ、西武などの広告を手掛ける。雑誌「ポパイ」にエディターとして参加。大のアメカジ通として知られライター、コラムニストとしてメンズファッション誌、TV誌、新聞などで執筆。「ビギン」、「MEN’S EX」、JR東海道新幹線グリーン車内誌「ひととき」で連載コラムを持つ。
「@ニュースなルック」記事一覧

THE NIKKEI MAGAZINE 4月誕生!
Men's Fashionはこの4月、あらゆるビジネスパーソンに上質なライフスタイルを提案するメディア「THE NIKKEI MAGAZINE」に生まれ変わります。限定イベントなどを提供する会員組織「THE NIKKEI MAGAZINE CLUB」も発足します。先行登録はこちら