鈴木 そういうことはないね。自分で決めちゃう。僕は社長をやっていた頃は、ものすごく厳しいと言われていたの。でも、新しく始めたことのほとんどは自分で発想したものをまわりの皆にやってもらっていたんだよね。「鈴木というのは厳しい」とまわりから思われつつも、ついてきてくれる人がいたから、やってこられた。

多数決で決めるのはリーダーじゃない

山田 私はつい他人の目を気にしてしまいます。

鈴木 それは誰でもあること。僕は人事をやっていたこともあるんだけど、人を動かすというときに、自分の気に入った人やよく知っている人だけを集めるのはまずいね。友達を作るときもそうだと思うよ。やはり色々な人と付き合うのが大切じゃないかな。

山田 引退されたときには鈴木さんの提案が通らなかったそうですが、今どう受け止められているんですか。

鈴木 僕は前から、自分の考え方が(会社の中で)通らないときには、もう自分が必要ないということだと考えていた。僕が辞めたのが83歳。80歳になったら辞めなくちゃ、と思っていた。人事をやっていた若い頃、役員定年は70歳というルールを作っていた。自分で作っておきながら通り越して、80歳を過ぎてしまった。

辞める前、たまたま自分の提案が通らなかった。「ああ、通らないんだったら」って、その瞬間に辞めることを決めた。何かじっくり考えたわけではなくて、会議が終わって自分の部屋から妻に電話して、「僕は今日で辞めるからね」と。今、振り返って考えても、あの「自分の提案が通らない」ということがあったから辞められたと思う。

山田 もし、なかったらどうですか。

鈴木 なかったら、(辞めるのは)難しいよねと思う。やっぱり。目の前に仕事があるから。

何年も社長をしてきて思うのは、リーダーというのは決めることが大切。ものすごく抽象的だけど。全員が仲良くてなんていうのはリーダーじゃない。全ての責任を持って決定すること。決められない性格だったらリーダーになるべきじゃない。

山田 ……。すみません、涙が出てしまって。言葉の重みがすごくて……。

私は高校のときにミュージカル部の部長をやっていたんですけど、まさに方針を決めるときに人のことを気にしすぎてどうしたらいいかわからなくなってしまったので、今の話を2年前の自分にも聞かせたいし、これから何かやるときに心がけたいです。

鈴木 最近、よくボトムアップ型の組織って言うでしょ? 僕はね、皆の意見を聞いて、多数をとるというのは、ボトムアップではないと思う。10人いて、A案が6人、B案が3人、C案が1人だからA案がよかろうというのは違う。自分の方針をきちんと出した上で、その方針に賛同する人から様々な意見を得ることがボトムアップ。リーダーが方針を出さないボトムアップでは、組織は成り立たない。リーダーがきちんと決められるなら、厳しいと思っていても人は付いてくる。

自分で決める習慣を付けていけばいい。そのためには、前提として公平であることが大事。あの人の意見だけ聞くとかはダメ。下の人たちがどう思って見ていたか知らないけど。まわりからは相当、ワンマンに見えていたと思うけどね。

対談後、二人にメッセージをはがきで贈りあってもらいました(了承を得て掲載しております)

(文・構成 安田亜紀代)

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