新型コロナで保育所が臨時休園 育休延長の対象に
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育児休業を取っていた従業員が復帰するタイミングとして、最も多いのは新年度を迎える4月。4月から子どもを預ける場合、慣らし保育などを考慮しながらも自治体は同月中の職場復帰を求める例が多いのが実情です。しかし、今一番懸念されるのが、新型コロナウイルス感染症の拡大。この時期の職場復帰に、不安やためらいを感じている人は少なくありません。
実際、新型コロナウイルス感染症に関する対応として、保育所などの臨時休園や市町村から登園を控える要請がなされている状況もあり、法律を一部見直す暫定的な取り扱いが厚生労働省から示されました。いったい、どのような内容なのでしょうか。
育児休業が延長できる理由とは?
育児休業は、原則として1歳に満たない子を養育する男女労働者が取得することができます。しかし、例外的な措置として、雇用の継続のために特に必要と認められる場合に限り、1歳6カ月(再延長で2歳)まで育児休業を延長することができます。
これは、具体的に次のいずれかに該当する場合をいいます。
(2)常態として子の養育を行っている配偶者(育児休業に係る子のもう一人の親である者)であって 1歳(または1歳6カ月)に達する日後の期間について常態として子の養育を行う予定であった者が死亡、負傷・疾病など、離婚などにより子を養育することができなくなった場合。
延長となるほとんどのケースは、(1)の保育所などに入れない場合です。首都圏を中心に待機児童の問題が大きく取り上げられることの多い昨今、育休延長は決して珍しい話ではありません。この場合、少なくとも子が1歳(または1歳6カ月)に達する日の翌日において、市町村が発行する保育所の入所不承諾通知などの証明書類が必要になります。
なお、「保育所など」とは、児童福祉法に規定する保育所だけでなく、就学前の子どもに関する教育、認定こども園や児童福祉法に規定する家庭的保育事業などを指し、認可外保育施設は含みません。
暫定的な取り扱いが認められるように
今や預け先である保育所などが新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、臨時休園を実施している場合もあります。一人でも感染者が出れば、当面休園は避けられませんし、そうした事態を防ぐために、自治体によっては可能な限り自宅で保育を行い、登園を控えるように要請を出している場合もあります。
そこで、厚生労働省から「新型コロナウイルス感染症に関する対応に伴う『育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律の施行について』の一部改正について」(雇均発0326第4号・令和2年3月26日)という形で、暫定的な取り扱いが急きょ示されました。
本来であれば、保育の利用ができる状況にあれば、育児休業を延長することができません。ところが保育所などの内定を受けていたり、子を入所させている場合でも、新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点から、保育所などが臨時休園となっているときや、市町村または保育所などから登園を控える旨の要請があれば、育児休業の延長ができる、というものです。
子が2歳に達するまでの延長が対象で、育児休業の延長が認められれば、育児休業給付金の支給も引き続き受けられ、経済面においても安心できます。
都内の認可保育所では、家庭で保育が可能な場合は、できる限り登園せずに家庭で保育を行うことを要請しており、4月入園が決まっている保護者で現在育児休業中の場合、延長して5月末までの復職を認める例外措置が設けられました。
こうした措置を受けて、新型コロナが収束するまで、復帰時期を遅らせるケースは十分に考えらえるでしょう。ただし、自治体や保育所などによって対応は異なりますので、各自で確認しておく必要があります。
ここで注意したいのは、復職日。5月末までの復職が必要だとされているのを早合点して、5月末まで育休が延長できると思ってはいけません。特に今年5月31日は日曜日、一般企業では所定休日です。
そうなると、どんなに遅くとも所定労働日である5月29日までに、復職して働いている必要があります。つまり、最大で5月28日まで育児休業を延長できる、ということになりますが、何が起こるかわかりませんので、ギリギリの設定は避けた方が無難といえるでしょう(会社の所定休日によって日付は変わります)。
小さなお子さんがいる方も心配はありますが、現在妊娠中の方にとって、新型コロナウイルス感染症が拡大する状況下で働くことに、大変な不安を感じているものと思います。
現時点での医学的知見では、妊娠後期に新型コロナウイルス感染症に感染したとしても、経過や重症度は非妊婦と変わらないとされていますが、妊娠中に肺炎を起こした場合、そうでない方と比べ重症化する恐れがあります。
パートタイム労働者や派遣労働者など雇用形態にかかわらず、テレワークや休みやすい環境の整備など、各職場において妊娠中の女性労働者にぜひ配慮するよう、厚生労働省から経済・労働団体に要請も出されました。
感染拡大がこれからどうなるか、ロックダウン(都市封鎖)が起こり得るかなど、まだ予断を許さない状況です。今後また方針が変わっていく可能性は十分に考えられますが、各自治体などの要請内容を踏まえたうえで、最適な方法を考え、冷静に対応していきたいものです。
人事労務コンサルタント・社会保険労務士。中央大学大学院戦略経営研究科修了(MBA)。米国企業日本法人を退職後、社会保険労務士事務所などに勤務。2005年3月、グレース・パートナーズ社労士事務所を開設し、現在に至る。女性の雇用問題に力を注ぎ、働く女性のための情報共有サロン「サロン・ド・グレース」を主宰。著書に「採用と雇用するときの労務管理と社会保険の手続きがまるごとわかる本」をはじめ、新聞・雑誌などで活躍。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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