新型コロナで問われるリーダーシップ 求められるのはダイバーシティ進化論(村上由美子)

2020/4/11
画像はイメージ=PIXTA
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最近VUCAという言葉が頻繁に使われる。変動性、不確実性、複雑性、曖昧性を意味する英語の頭文字をとった言葉だ。激動の現代社会を表現するキーワードだが、新型コロナウイルス感染に翻弄される今日の状況にも的確に当てはまる。VUCA時代にはワンマン型のリーダーより、多様な人々を巻き込み後方から羊飼いのように道筋を誘導するリーダーシップが有効とされている。どんなに経験豊富なリーダーでさえ、未曽有の公衆衛生危機に対する明確な解決策は持ち合わせていない。

一寸先は闇という状況下、思い切った対策を的確に打ち出すことは至難の技だ。多様な視点が迅速に意思決定プロセスに反映されることが、予見不能な事態を打破するのに有効な発想をもたらす。同時に「船頭多くして船山に登る」状況を避けるためにも、平時から重要ポストに多様な人材を配置し、彼ら彼女らのインプットが緊急事態下のリーダーの耳に速やかに届くことが必須だ。

2月末の一斉休校要請は、感染拡大を抑える一定の効果はあったのかもしれない。しかし突然の休校により、在宅を余儀なくされた看護師などの医療関係者が続出し、一部の病院や老人福祉施設で人手不足に陥るという問題も発生した。働く母親の視点があれば、このような状況は容易に想定できたであろう。緊急事態に対応していた医療や介護の現場に、さらなる混乱を招く事態も回避できたかもしれない。

危機に直面した国民が政府に求めるものは信頼感であろう。自らの先見性の限界を謙虚に認識し、多角的な知見を意思決定に反映した上での結論であれば、リーダーの判断は最善策として信頼される。OECD(経済協力開発機構)による欧州諸国の調査では、内閣の女性大臣比率と国民の政府に対する信頼度には正の相関関係があると指摘されている。性別による能力の優劣ではなく、異なる思考や視点が政策議論で生かされる体制を、国民が信頼していることを意味しているのではないだろうか。

「リーマン・ブラザーズにシスターズもいれば金融危機は避けられたかもしれない」と言及する世界のリーダーは多い。安倍晋三首相も頻繁に引用する。まさにVUCA的状況だったリーマン・ショックから教訓は学べたのか。コロナ・ショックに立ち向かうリーダー達に問うてみたい。

村上由美子
 経済協力開発機構(OECD)東京センター所長。上智大学外国語学部卒、米スタンフォード大学修士課程修了、米ハーバード大経営学修士課程修了。国際連合、ゴールドマン・サックス証券などを経て2013年9月から現職。米国人の夫と3人の子どもの5人家族。著書に『武器としての人口減社会』がある。

[日本経済新聞朝刊2020年4月6日付]

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