2020/4/22

2019年11月頃に動物からヒトへ飛び移った

ウイルスの進化の歴史を明らかにするネクストストレインの能力はまた、「新型コロナウイルスは生物兵器として実験室で秘密裏に製造されたものである」という陰謀論を即座に打ち砕いた。

3月17日付で学術誌「ネイチャー・メディシン」に発表されたアンダーセン氏らの論文は、新型コロナウイルスのゲノムの特徴を、重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)を含むコロナウイルスや、コウモリやセンザンコウなどの動物から単離されたコロナウイルス株などのゲノムの特徴と比較して、陰謀論を否定した。

そもそも、新型コロナウイルスの基本的な構造は、これまでに研究されてきたどのコロナウイルスとも異なっている。また、その遺伝子には、実験室で培養されたのではく、生きた免疫系と戦ってきたことを示唆する特徴がある。

それだけではない。生物兵器の設計者は、最大の効果を得るために、既存のウイルスをヒントにして完璧なウイルスを作り出そうとするだろう。ところが新型コロナウイルスには、自然選択によるものと思われる小さな欠陥がいくつかある。

例えば、細胞への感染の仕方だ。コロナウイルスが動物細胞に感染するときには、ブロッコリーの頭の部分のような形の「スパイク」と呼ばれるタンパク質を使って細胞の「出入口」にあたる受容体に結合し、細胞内に侵入する。新型コロナウイルスは、ヒト細胞の「ACE2(アンジオテンシン変換酵素2)」を利用して細胞に侵入するが、この作用が最適なものではないことが実験によって示されている。

「人為的に完璧なウイルスを作ろうとするなら、このようにはしないでしょう」とアンダーセン氏は言う。氏らの分析結果は、新型コロナウイルスが2019年11月頃に動物からヒトへ飛び移ったことを示唆している。

将来的には、新しいウイルスが出現した際に、感染が発生した場所や地域を拡散前に特定する上で、遺伝子解析技術がさらに重要な役割を果たすようになるだろう。

「例えば、アフリカのとあるコミュニティーで新しいウイルスが出現したとしても、今ならそのサンプルを実験室に運んで、ショットガン法という遺伝子解析を行えます」とフィル・フェッボ氏は話す。この方法は、ランダムな短い断片の塩基配列を読み取ってゲノム全体を決定できるため、当局は、感染拡大を阻止する戦略を迅速に定められる。なお氏は内科医であり、米カリフォルニア州サンディエゴに拠点を置く遺伝子解析機器の世界最大手イルミナ社の最高医療責任者でもある。

迅速に対応できるウイルス監視網を世界中に張り巡らせるためには、まだたくさんの仕事をしなければならない。各国政府を巻き込み、実験室を設置し、解析装置を操作して結果を解釈できるスタッフを募集し、訓練する必要がある。

「問題は、技術的制約ではありません。国際コミュニティーの覚悟なのです」とフェッボ氏は言う。

(文 SARAH ELIZABETH RICHARDS、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2020年3月31日付]

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