鋳物の調理用具バーミキュラ、おいしさ分かる体験施設
鋳物ホーロー鍋「バーミキュラ」で知られる鋳造メーカーの愛知ドビー(名古屋市)によるバーミキュラの体験施設「VERMICULAR VILLAGE(バーミキュラ ビレッジ)」が人気だ。2019年12月に地元の中川運河エリアにオープンし、20年3月中はにぎわっていた(6月1日から営業を全面再開予定)。
バーミキュラは高い密閉度を誇り、いわゆる無水調理ができる点が特徴。シリーズとして10年から鍋を、16年からは炊飯器を販売しており、いずれも大ヒットしている。
バーミキュラで作る料理のおいしさを体験できる施設がバーミキュラ ビレッジで、レストランやベーカリーの他に、購入前に商品を使って試せる直営ショップなどがある。特にレストランとベーカリーは平日でも開店前から行列ができ、バーミキュラで焼き上げた人気の食パンは発売30分ほどで売り切れることも珍しくないという。
直営ショップでは、バーミキュラの限定商品を11種類も販売しており、売れ行きは好調だ。愛知ドビーの土方智晴副社長は、「ショップの売り上げは、目標の2倍で想定以上。ベーカリーは1日約200組が来店し、レストランは1日200人から250人が利用している」と話す。
愛知ドビーは「22世紀も社会から選ばれる会社になる」というスローガンを掲げている。同社が言う社会とは、顧客とスタッフ、地域社会のこと。バーミキュラ ビレッジの開業は、その実現に向けた動きの一環だ。「目指したのはお客様とスタッフが一緒にバーミキュラを楽しめる場をつくること。スタッフは暮らすように働くことができ、地域の人たちにも喜んでもらえる。そんな空気感となるように、細部まで妥協せずつくり込んだ」と土方副社長は言う。
指針となったのが「世界一、素材本来の味を引き出す」というバーミキュラのコンセプトだ。バーミキュラの鍋は機能から生まれたデザインで、長く使い続けられるように素材も厳選。修理も受け付けている。
そうしたものづくりへの姿勢も伝わるように、建築をはじめ、内装やインテリア、レストランで提供する料理、サービスに至るまで、1つひとつコンセプトに立ち返りながら決めていったという。
イベントやワークショップが開催できるスペースも多めに設けた。バーミキュラ ビレッジの存在意義でもある「顧客とスタッフが楽しむため」の企画を実現しやすくするためだ。「フレキシブルに使える空間があると、発想も広がりやすい。いいアイデアが生まれても、場所を借りるところから始めると実現まで時間がかかってしまう」(土方副社長)。今後は有名なシェフを招いたイベントなども開催していく計画だ。
開発期間10年、新製品「バーミキュラ フライパン」を発売
●インタビュー:愛知ドビー 土方智晴副社長
――「バーミキュラ」からフライパンを発売しました。なぜ、フライパンを開発したのでしょうか。
10年前にバーミキュラの鍋を発売した頃から、フライパンは開発したいと考えていました。理由は、私がフライパンで料理をすることが苦手だったから。使いやすくておいしく作れる画期的なフライパンがあったら、もっと料理が楽しくなるだろうと思っていました。そんな楽しい料理体験をお客様に提供し、喜びを共有したい。その思いが開発のきっかけです。
まず考えたことは「世界一、素材本来の味を引き出す」というバーミキュラのコンセプトをフライパンでも実現する方法です。最終的には「いかに瞬間的に水分を飛ばすか」が重要という結論に至りました。さまざまな素材で検証したところ、最適なのは熱伝導率が高い鋳物製のホーローであることも分かりました。
――技術的に難しかったことは。
最も苦労したことは、耐久性の高さと軽さの両立です。バーミキュラのフライパンといえば、無水調理ができると思いますよね。だけど、私はどうしてもやりたくなかった。バーミキュラの肉厚な鍋は、無水調理のために設計したものです。そのままフライパンにすると、片手で持つには重過ぎる。軽くするためには、フライパンを薄くするしかありません。鍋と同様にフライパンの蓋も鋳物で作れば、無水調理はできますが、バーミキュラが目指す味にはならないんです。バーミキュラの「ニセモノ」を作っても意味がないので、フライパンは焼くことだけに特化しようと決めました。
フライパンを軽くするために、厚さは最薄部で約1.5ミリメートルにしています。新開発のホーローを塗装しており、これを約800度でひずませずに焼き上げることも容易ではありませんでした。そもそも1.5ミリメートル厚の鋳物を作ること自体、とても難しい。私たちが実現できたのは、バーミキュラの鍋を生産してきた10年間に、日々の改善と技術革新があったからです。
――今後の開発計画は。
調理器具のメーカーとして、アイテムを充実させることを目的として商品を開発することは、良くないと思っています。市場の動向も、意識しません。重視していることは、あくまでも私の内発的な動機です。一番身近な調理器具であるフライパンでも、バーミキュラの鍋と同様においしい料理ができたら最高だと心から思っていたので、粘り強く開発できました。これまでの経験からも、お客さまに喜んでもらうことが、利益を生み出すことになると確信しています。
(ライター 西山薫)
(写真/上野英和、写真提供/愛知ドビー)
[日経クロストレンド 2020年3月23日の記事を再構成]
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