問題を解決するアイデアを考える上で、人の意識を変えて行動を変える方法だけでなく、人の行動を変えることで徐々に意識を変えていく方法もあります。2つのアプローチがあることを覚えておくことで、アイデアが広がります。

◇エスノグラフィ調査

顧客の行動観察を通じて新しい事業や商品のヒントを見つける方法として近年注目を集めているのが、「エスノグラフィ調査」と呼ばれる調査方法です。エスノグラフィとは、元々は文化人類学の分野で行われていた調査手法です。例えば、未開の土地に住む民族の習慣や文化を調べるために、研究者が数カ月、時には数年にわたって住み込み、先進国の常識を捨てて、彼らのありのままの行動を観察する方法です。

マーケティングの世界においては、例えば高級バイクブランドを愛するコミュニティに、マーケターが自らメンバーとして参加して、ディープなファンが商品とどのように向き合っているかをつぶさに観察することで、新製品や新しいサービスの発想を得るといった事例が生まれています。

私たちの暮らしが多様化し、一律のアンケート調査だけでは顧客のことがよく分からなくなってきた現代、実際に自分の目で見て感じることが、マーケティングリサーチの世界では重要だと言われています。

しかし、文化人類学者のように顧客の家庭に数カ月も住み込むことは現実的ではありません。そこでよく行われるのが、家庭訪問調査です。事前に、商品を愛用している顧客を探し出し、実際に家庭で使っているところを見せてもらうのですが、企業が想定していた使い方ではない場合が多く、様々な発見があります。

例えば、時短家電に関する家庭訪問調査を行ったと想定してください。IT企業の秘書を務める女性のお宅を訪問すると、ロボット掃除機や自動スープ作成機など、最近の時短家電がキッチンに所狭しと並んでいる一方で、炊飯器は使わずに、土鍋でご飯を炊いていたり、アンティークの食器を愛用するなど、アナログな道具も時短家電を活用する一方で愛用していることが分かりました。

一見矛盾するような購買行動ですが、全ての家事を合理化したいわけではなく、週末に豊かな生活を過ごすため、平日はなるべく時短をしたい、というのが彼女の本音でした。このような本音が分かると、新たな家電を開発するヒントが色々と見えてきます。エスノグラフィ調査の手法について詳しい『機会発見――生活者起点で市場をつくる』(英治出版、岩嵜博論著)によると、エスノグラフィ調査では、師弟関係における弟子のような態度が必要だと述べられています。自分の常識を一旦忘れ、顧客の行動を師と仰ぎ、新しい着眼点を得ることが、アイデア発想を広げる第一歩だと言えます。

岡田庄生
博報堂ブランドイノベーションデザインディレクター。1981年東京都生まれ。国際基督教大学卒、2004年博報堂入社。PR局などを経て、現職。14年に日本PR協会「PRアワード2014」優秀賞受賞。共著に『博報堂のすごい打ち合わせ』など。

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