狙うは「行動したくなる」きっかけ作り
では、どのようにアイデアを考えていけばいいでしょうか。ここで、男子中学生たちの意見を聞くのではなく、行動を見ていきたいと思います。男子トイレでの様子を観察すると、最大の問題は彼らの立っている場所にあることに気付きます。朝、トイレがきれいな時には、小便器に近づいて用を足しています。しかし、昼に近づくにつれて、徐々に離れていきます。
便器の汚れを避けるように少し離れた位置から用を足すことで、さらに汚れが拡大していきます。次の生徒は、さらに離れた位置から用を足す。そんな負のスパイラルに陥っていることが分かってきました。
ここで、アイデア・ブリーフを書いてみましょう。「誰に」は「学校のトイレを雑に扱う中学生男子」に、「どんな気持ちに応える」には「便器の近くで用を足したくなる」と設定してみましょう。トイレをきれいに扱う気持ちを高める方法は、効果が期待できそうにありません。もっと別の視点で、便器に近づける方法を考える必要がありそうです。
近くで用を足してもらうために、同じ張り紙にするにしても「もう一歩前へ進め」と具体的に示す内容の方が効果的だと考えられます。また、より直感的に近づけさせるためには、「理想の立ち位置に足形を描き、立つ場所を指定する」という切り口はどうでしょうか。さらに、男子中学生の心を捉えるために、便器の奥に的を描き、ゲーム感覚で近づかせるという方法もあります。便器の奥に的を描く際に、射的のような的だけでなく、ハエの絵柄にしてみたり、色が変わるような仕掛けにしてみたり、とアイデアも広がりそうです。
このように、意識がなかなか変わらないと思ったら、つい行動してみたくなるきっかけを作ることが重要です。このような、「つい行動してしまう」アイデアを学術的に研究しているのが、大阪大学大学院の松村真宏教授が中心となって進めている「仕掛学」です。
便器の事例も、書籍『仕掛学――人を動かすアイデアのつくり方』(東洋経済新報社、松村真宏著)の中から引用しました。他にも、人間の心理を利用した面白い仕掛けがたくさん紹介されている良書ですので、ぜひ参考にしてください。