村田沙耶香が短編集 社会も作品も変容、単一ではない
コンビニバイト歴18年の独身女性を描いた『コンビニ人間』で、2016年に芥川賞を受賞した村田沙耶香。作品の多くで、世の中に対して異質感を伴う主人公を生や性、家族の形といった面から描いている。最新作『丸の内魔法少女ミラクリーナ』は、受賞前に書いた3編と昨年書いた1編を収めた短編集だ。
表題作はストレスフルな日常を小学生時代から続けている"魔法少女ごっこ"で華麗に受け流していく30代OLの話。
「雑誌の『ヒーロー特集』に書いた短編で、大人になってもヒーロー遊びを続けている人を描きたかったんです。子どもの頃の延長でヒーローやヒロインの世界に安心感を求め続けることに『現実を見ろ』と言う人もたくさんいるでしょうが、こういう『現実との向き合い方』もあると思うんです」
短編集の設定やアプローチは4編それぞれ独自ながら『コンビニ人間』同様に異質さが際立つ人を丁寧に描くことで、読み手に根づく"普通"を揺るがしていく。最初の3編は6~7年前に書いたもので、書いた当初とは感覚や意識、知識が変わったという。例えば、モラハラという言葉や概念の世間への浸透度、セックスやジェンダーに対する風潮などは今と明らかに違っている。「社会も作品も変容するし、単一ではない。そういった多面性を、この作品集で楽しんでほしいです」
昨年書いた『変容』は最近最も気になるテーマを題名にしている。「世界は絶対的なものだと昔は考えていて、作品にも表れていました。今や世間は前ほど恋愛至上主義ではなくなっているし、女性が外出先のトイレで流水音を流すのがマナーになっていたり、水やお茶を買うのが常識だったり。風習も人の感情も変容していくのだなと考えるようになって」
物語の軸が定まると、まず白い紙に主人公の雰囲気を表す似顔絵を描き、年齢や性別、髪形や着る服などを思い浮かべていく。「次に主人公と化学変化が起きる人を考えます。嫌な人でも、魅力的な人でもいい。主人公との関わりの中で面白い会話が生まれるのはどういう人か」。浮かんできた会話やシーンをとにかく紙に書き留めていく。
「一般的なコピー用紙を持ち歩いています。縦横、裏表かまわず、思いついたときに思いついた分だけ書いていきます」。書き込んだものをタブレットに取り込んで、プリントしてさらに書き込み、順序を入れ替えるなどして小説に成形する。
「いつもラストはまったく決めないので、何パターンも書くことはあります。人間としての村田はハッピーエンドにしたいけど、登場人物らしい言動に従うと思いもかけない展開になることも」
異質な設定でありながら、読み手の無意識にふっと入り込むのが村田作品。作家自身が正面から突き詰めて描くからこそ、だろう。
(日経エンタテインメント!4月号の記事を再構成 文/土田みき 写真/鈴木芳果)
[日経MJ2020年4月3日付]
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