村田沙耶香が短編集 社会も作品も変容、単一ではない

コンビニバイト歴18年の独身女性を描いた『コンビニ人間』で、2016年に芥川賞を受賞した村田沙耶香。作品の多くで、世の中に対して異質感を伴う主人公を生や性、家族の形といった面から描いている。最新作『丸の内魔法少女ミラクリーナ』は、受賞前に書いた3編と昨年書いた1編を収めた短編集だ。

村田沙耶香 1979年、千葉県生まれ。玉川大学卒業。2003年に『授乳』で群像新人文学賞優秀賞を受け作家デビュー。特殊な舞台設定で生と性、家族の在り方を考えさせる作品を多く発表している。

表題作はストレスフルな日常を小学生時代から続けている“魔法少女ごっこ”で華麗に受け流していく30代OLの話。

「雑誌の『ヒーロー特集』に書いた短編で、大人になってもヒーロー遊びを続けている人を描きたかったんです。子どもの頃の延長でヒーローやヒロインの世界に安心感を求め続けることに『現実を見ろ』と言う人もたくさんいるでしょうが、こういう『現実との向き合い方』もあると思うんです」

短編集の設定やアプローチは4編それぞれ独自ながら『コンビニ人間』同様に異質さが際立つ人を丁寧に描くことで、読み手に根づく“普通”を揺るがしていく。最初の3編は6~7年前に書いたもので、書いた当初とは感覚や意識、知識が変わったという。例えば、モラハラという言葉や概念の世間への浸透度、セックスやジェンダーに対する風潮などは今と明らかに違っている。「社会も作品も変容するし、単一ではない。そういった多面性を、この作品集で楽しんでほしいです」

昨年書いた『変容』は最近最も気になるテーマを題名にしている。「世界は絶対的なものだと昔は考えていて、作品にも表れていました。今や世間は前ほど恋愛至上主義ではなくなっているし、女性が外出先のトイレで流水音を流すのがマナーになっていたり、水やお茶を買うのが常識だったり。風習も人の感情も変容していくのだなと考えるようになって」

『丸の内魔法少女ミラクリーナ』 表題作は、魔法少女に変身する妄想を意識的に使い、日々のストレスを乗り切る36歳のリナが主人公。仲間の恋愛の危機に対し、“ある提案”をして解決を図るのだが……。ほか『秘密の花園』『変容』など全4編(KADOKAWA/税別1600円)

物語の軸が定まると、まず白い紙に主人公の雰囲気を表す似顔絵を描き、年齢や性別、髪形や着る服などを思い浮かべていく。「次に主人公と化学変化が起きる人を考えます。嫌な人でも、魅力的な人でもいい。主人公との関わりの中で面白い会話が生まれるのはどういう人か」。浮かんできた会話やシーンをとにかく紙に書き留めていく。

「一般的なコピー用紙を持ち歩いています。縦横、裏表かまわず、思いついたときに思いついた分だけ書いていきます」。書き込んだものをタブレットに取り込んで、プリントしてさらに書き込み、順序を入れ替えるなどして小説に成形する。

「いつもラストはまったく決めないので、何パターンも書くことはあります。人間としての村田はハッピーエンドにしたいけど、登場人物らしい言動に従うと思いもかけない展開になることも」

異質な設定でありながら、読み手の無意識にふっと入り込むのが村田作品。作家自身が正面から突き詰めて描くからこそ、だろう。

(日経エンタテインメント!4月号の記事を再構成 文/土田みき 写真/鈴木芳果)

[日経MJ2020年4月3日付]

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