死亡リスクを下げる食物繊維

しかし、残念ながら日本人の食物繊維摂取量は十分ではない。「戦後すぐの時期に1日25グラム以上あった食物繊維の摂取量が現在では平均14グラム程度にまで減り、すべての世代で減少している。その理由として、主食(穀類)からの食物繊維不足が大きく影響している」と内藤准教授。

厚労省の2020年版「日本人の食事摂取基準」では当初、食物繊維摂取目安量を1日24グラム以上に目標値を定めようとしたが、18歳以上の日本人の平均で1日13.7グラムしかとれていない現状を踏まえ、男性21グラム以上、女性18グラム以上という目標量に落ち着いた。

今年1月、国立がん研究センター予防研究グループが毎日の食物繊維摂取量と死亡リスクの関係について、45~74歳の約9万3000人を平均16.8年追跡して調べた結果を報告している。これによると、男女ともに食物繊維の摂取量が多いほど全死亡リスクと、循環器疾患による死亡リスクが低くなっていた。一方、がんによる死亡リスクは男性においてのみ、食物繊維の摂取量が関係していた。

食品別では、豆や野菜、果物由来の食物繊維摂取量は多いほど死亡リスクが低いという傾向が出たが、欧米の研究で死亡リスク低下にほぼ確実に関連があるといわれている穀類由来の食物繊維摂取量とは有意な関係が見られなかった。この理由について研究班は「欧米と比較して日本では穀類の中心が食物繊維含有量の少ない精白米であることが理由ではないか」としている。

岩手県、秋田県、長野県、沖縄県、大阪府、東京都など全国の11エリアに居住し、がん、循環器疾患のない45~74歳の男女、9万2924人(男性4万2754人、女性5万170人)を平均16.8年間追跡。食事調査アンケートを実施し、食物繊維摂取量とその後の死亡リスクとの関連を、食物繊維摂取量が少ない群を1とした場合の比率で表した。男性の1日平均の食物繊維摂取量は最も少ない群で「8.7グラム以下」、最も多い群が「15.7グラム以上」だった。一方女性は、最も少ない群で「10.6グラム以下」、最も多い群で「17.4グラム以上」。男性より女性のほうが食物繊維を多く取る傾向にあることが確認された。(Am J Clin Nutr. 2020 Jan 28. pii: nqaa002.)

主食に全粒粉など精製度の低い穀物を

米国・カナダや多くのEU諸国では、食事ガイドラインで全粒穀物摂取が推奨されている。全粒穀物とはふすまや胚芽を残した小麦やオーツ麦、大麦、玄米、ひきぐるみのソバなどのことだ。しかし、今のところ、日本ではそのような指針は示されていない。

欧米人は指導などを受け、シリアル類を朝食にするなどして全粒穀物を日々の生活に取り入れているが、日本では、白いご飯を主食にする家が多く、玄米ご飯や食物繊維が豊富な大麦を加えたご飯を主食にする家庭が多いとはいえない。これが、欧米に比べ、日本で穀物由来の食物繊維摂取量が少ない理由といえそうだ。

しかし、内藤准教授らの研究で、そんな日本の中でも、日常的に全粒穀物を食べている京丹後では百寿者が多いことがわかった。

19年、240以上の研究とそれに参加した計約1億3500万人分のビッグデータから、食物繊維と死亡リスクやさまざまな病気リスクの関係を解析した研究が発表された。その結果は総食物繊維量を増やしても、全粒穀物の摂取量を増やしても、どちらも死亡リスクが低下し、心血管疾患、2型糖尿病、大腸がん、乳がんといった病気のリスクが下がるというものだった。つまり全粒穀物からとる食物繊維は、これだけを十分にとっても効果が得られるということだ[注4]

解析を行った研究チームは「1日あたりの食物繊維摂取量が25グラムから29グラムのときに、死亡や疾患にかかるリスク低下度が最も大きい」と分析している。

国立がん研究センターが発表した前述の研究では、一番多く食物繊維をとっていた群でも男性で1日平均は18.2グラム、女性で19.7グラムだった。私たち日本人の食物繊維摂取量が、その働きを確実に得るには少ないかがわかる。

京都府立医大の内藤准教授は「京丹後の高齢者が食べている全粒穀物の種類の分析はまだ終わっていない」と語るが、精製度の低い穀物を主食に取り入れ、納豆などの大豆製品や野菜、果物など食物繊維が多い食品を意識的にとる食生活を心がけるのが、「腸からの健康長寿」への近道といえそうだ。

食物繊維をたくさんとっていれば、腸内細菌が利用してビフィズス菌や酪酸産生菌などが増え、腹の中から病気に強い心身をサポートしてくれる。食事をとる際には、健康長寿と密接な関係を持つ腸内細菌たちにも思いをはせたい。

[注4] Lancet. 2019 Feb 2;393(10170):434-445.

(ライター 堀田恵美)

内藤裕二准教授
京都府立医科大学大学院医学研究科消化器内科学教室

同大附属病院内視鏡・超音波診療部部長。京都府立医科大学卒業。炎症性腸疾患、腸内フローラ、消化器学を専門とする。著書に『消化管(おなか)は泣いています』(ダイヤモンド社)などがある。
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