在宅勤務は「残業代なし」いいの? 難しい時間で管理比嘉邦彦東京工業大学環境・社会理工学院教授(上)

比嘉教授は「働く人に働きやすい環境を与えることが重要」という

時間での管理は難しい

白河 なるほど。働く場所だけ自由でも時間はどうするかという問題もあります。テレワークは働く場所だけでなく時間の柔軟性を含めたものであるべき、ということですね。

比嘉 そうでなければ、テレワークによる本質的なメリットが生まれません。

大企業で散見されるのが「在宅勤務の場合は、残業をさせません」という姿勢なのですが、これはおかしいと私は思っています。その意図は、長時間労働を防ぐ労務管理が主目的なのですが、そもそも出社しない働き方を前提としたときに「時間で社員を管理する」というのは無理なんです。「18時以降はネットワークを切ります」とルール化したって、その時間より前にデータをダウンロードしてしまえば、業務は続行できますよね? ワーカーは自分がやりやすい時間帯で柔軟に時間を決めて仕事をするほうがはかどるはずです。

20年以上前のデンマークの調査で面白い報告があるんです。ある企業が在宅勤務を試行した結果、労働時間は長くなった。しかし、ワーカーの満足度は高くなった。理由は「働かされているのではなく、自主的に働いているから」というものだった。

白河 自由にスケジューリングしている自律性が満足のポイントだった、と。

比嘉 そうなんです。ワーカーが労働時間を自分自身でコントロールできていることも分かり、労働組合も納得して本格導入に踏み切ったそうです。テレワーク反対派の管理職には「見ていないとサボるだろう」という意見が多いのですが、評価さえしっかり行えば、大多数の人は一生懸命働くのではないかと私は思います。

見られていないからこそ成果を出そうと一生懸命働いた結果、長時間労働になりやすくなる。サービス残業はむしろ増えるんです。ですから、「在宅勤務になったんだから、残業代はなしよ」という企業側の論理は成り立ちません。

例えば今後、コロナ問題が収束した後、「今後もテレワークを継続しましょう。その分、オフィスは縮小しましょう」と決定する企業はきっとたくさん出てくると思います。オフィス縮小は大幅なコスト削減につながります。企業にとってはコストが浮いてメリットが出ているのに、さらに残業代も削減するとなれば、シワ寄せはワーカーに行ってしまう。

企業がテレワークによって恩恵を受けた分は、在宅勤務手当なりボーナス還元なりで、ワーカーに返していくべきだと私は思います。実際、日本テレワーク協会が選出する受賞企業には、そういった取り組みを行う企業が出始めています。

白河 たしかに、オフィス投資の削減というのは、経営指標に直接跳ね返ってくる大きなインパクトがありますよね。完全テレワークになって、オフィスの席を8割まで減らしたり、東京駅前のオフィスを4フロアから3フロアにしたり、という事例を見てきました。毎月高額な家賃だけに大きいです。

比嘉 おっしゃるとおりです。テレワークを経営戦略として取り入れるなら「生産性向上」を目的にしないほうがいい。生産性は当初はトントン、長期的に見て上がればいいというくらいの期待で。むしろ確実に獲得できるメリットとなるのは「コスト削減」です。テレワーク導入のための投資をして、2~3年かけて回収していくプランは成功しますよ。

(明日はテレワーク時の職場のコミュニケーションなどについてお聞きします)

白河桃子
少子化ジャーナリスト・作家。相模女子大客員教授。内閣官房「働き方改革実現会議」有識者議員。東京生まれ、慶応義塾大学卒。著書に「妊活バイブル」(共著)、「『産む』と『働く』の教科書」(共著)、「御社の働き方改革、ここが間違ってます!残業削減で伸びるすごい会社」(PHP新書)など。「仕事、結婚、出産、学生のためのライフプラン講座」を大学等で行っている。最新刊は「ハラスメントの境界線」(中公新書ラクレ)。

(文:宮本恵理子、写真:吉村永)

注目記事