薄れる「東大一直線」 合格ランキングの裏側読み解く

2020/4/14

1990年代までに関西系の大手銀行や商社、製薬など大企業が相次いで本拠地を東京に移転する中、「関西で社会的な地位があり、所得も高い仕事といえば、医者ぐらいしかイメージできない」(灘OB)という面もあるという。東大合格ランキング上位の常連だった九州のラ・サール高校(鹿児島市)も生徒の4割が医学部に進学するようになり、2010年からベストテンを外れている。西日本で医学部シフトが強まった結果、東大合格者の出身校比率も6割が関東圏になった。

地方の名門校も医学部志望へ

全国各地の地域一番高校に通う生徒も、地元の医学部志向が鮮明になっている。

医学部の定員はそれぞれ100人程度だが、札幌南高校(札幌市)は北海道大学、仙台第二高校(仙台市)は東北大学、東海高校(名古屋市)は名古屋大学、久留米大学附設高校(福岡県久留米市)は九州大学で、それぞれの医学部合格者の5分の1から4分の1を占める。これら旧帝大の医学科の難易度は年々高まり、東大理1・理2と同水準だ。「今の東大は都会の学生ばかり。多様な人材がいないと革新的な研究は進まない。もっと地方の優秀な学生が来てほしい」と嘆く教官は少なくない。

女子学生の比率が2割以下にとどまっていることも東大の課題だ。大学側は地方出身者と女子学生を増やすことに懸命だが、そのネックとなっているのも異常な医学部人気。1994年以降、桜蔭高校(東京・文京)は東大合格高校ベストテンに入っているが、女子校はこの1校にとどまる。名門女子校は男子校以上に医学部志向が強く、桜蔭は東京医科歯科大学の高校別合格者数で度々トップに立つ。関西の名門女子校、四天王寺高校(大阪市)の19年の東大合格者は4人だが、国公立大学医学部医学科は50人台と関西ではトップクラス。同年に同校から唯一、東大理3に現役合格した上田彩瑛さんは「女子は手に職という意識が強い。四天王寺は(中学に)『医志コース』が新設されるなど、医学部対策にはすごく熱心だが、東大対策はやらない」という。

東大の国際的な評価は下降している。「世界大学ランキング」を公表している英教育専門誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーションは、「教育力」を軸にした日本版の2020年大学ランキングを発表した。18年まで1位だった東大は19年に京大に抜かれて2位、20年には東北大が首位に立ち、東大は3位に下がった。12年から東大合格校ベストテンに入っている渋谷教育学園幕張高校(千葉市)の田村哲夫校長は「うちの最優秀層は東大ではなく、海外の有名大学を目指している」という。渋幕は1983年設立と新興の中高一貫の男女共学校だが、グローバル人材の育成を掲げ、人気校になった。

東大は今、学生起業家が日本一多い大学といわれる。AI(人工知能)研究の第一人者、松尾豊教授やプリファード・ネットワークス(東京・千代田)の西川徹社長らの活躍で革新的なスタートアップ企業が次々誕生。西川氏は東大合格率トップの筑駒の出身で、後輩の東大生からも注目の起業家が増えている。16年度入試から東大は推薦制度を導入、イノベーティブな人材の育成に本腰を入れる。

灘高でも「医学部一辺倒の進学志望から、最新のテクノロジー分野に進もうという、ゆり戻しが起こっている」(安田さん)という。

1877年(明治10年)に設立された東大。以来、国内トップの研究・教育機関として、政官界や学界をはじめ各分野のリーダーとなる人材を輩出してきた。だが、「官僚神話」が崩壊し、「医学部信仰」が高まるなか、その魅力が弱まっているのは否めない。デジタル化、グローバル化が急速に進むなか、東大は次世代を担う人材のニーズに応えられるのか。注目しているのは高校ばかりではない。

(代慶達也)

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