最古の「現生鳥類」発見 恐竜の絶滅前、起源にも波紋

日経ナショナル ジオグラフィック社

ナショナルジオグラフィック日本版

アステリオルニスの姿の想像図。今から6670万年前、ベルギーの一部は浅い海の底で、今日のバハマ諸島のような熱帯気候だった。長い脚を持つアステリオルニスは、獲物を求めて先史時代の海岸を歩いていたかもしれない(ILLUSTRATION BY PHILLIP KRZEMINSKI)

今から20年前、アマチュア化石ハンターのマールテン・ファン・ディンター氏は、ベルギーとオランダの国境付近で、トランプのカード1組ほどの大きさの岩石を採集した。そして現在、どこにでもありそうなこの小さな石に、恐竜と同じ時代を生きた鳥の、小さいけれどほぼ完全な頭蓋骨が含まれていることが明らかになった。いわゆる鳥である「現生鳥類」のグループに属する化石としては最古のものだ。

2020年3月18日付で学術誌「ネイチャー」に発表された論文で、この鳥は「アステリオルニス・マーストリヒテンシス(Asteriornis maastrichtensis)」と命名された。頭蓋骨と脚の骨の分析から、カモとニワトリの特徴を併せ持っていたことが判明し、それらの共通祖先との関連が示唆される。

分析にあたった国際研究チームの科学者たちは、親しみを込めてこの鳥を「ワンダーチキン」と呼んでいる。この鳥が生きていたのは今から6670万年前のことで、それから70万年後には地球に隕石が衝突し、すべての非鳥類型恐竜を絶滅させることになる。

「非常に興味深く、すばらしい発見です。鳥類の進化の過程のほとんど知られていない部分に新しい知見をもたらすものです」と、ドイツのフランクフルトにあるゼンケンベルク研究所の鳥類学者で鳥類進化の専門家であるゲラルト・マイヤー氏は評価する。なお、同氏は今回の研究には参加していない。

アステリオルニスは脚の長い鳥で、おそらく飛ぶことができ、白亜紀末期のヨーロッパの海岸に生息していた可能性がある。当時は暖かく浅い海に島々が点在し、今日のバハマ諸島のような気候だった。

ティラノサウルスと同じ時代を生きた鳥

「恐竜時代に生息していた鳥について、保存状態の良い頭蓋骨が見つかったのは初めてです」と、今回の論文の筆頭著者である英ケンブリッジ大学の古生物学者ダニエル・フィールド氏は語る。「アステリオルニスは、ティラノサウルスやトリケラトプスが生きていた時代の現生鳥類の仲間がどのような姿をしていたのかをはっきりと見せてくれます」

今回の6670万年前の化石は北半球で発見されたが、これまでに知られている白亜紀の現生鳥類の仲間はいずれも南半球で見つかっていた。南極半島で発見され、2005年に記載された6650万年前のカモに似た鳥「ベガビス・イアアイ」もその1つだ。

アステリオルニス・マーストリヒテンシスの頭蓋骨の3D画像(IMAGE BY DANIEL J. FIELD, UNIVERSITY OF CAMBRIDGE)

恐竜と同じ時代を生きた鳥類は多いが、その多くは、歯を持つエナンティオルニス類などの原始的な鳥で、陸上に生息するほとんどの大型動物とともに絶滅した。現生の鳥類はすべて白亜紀末期に出現した新鳥類と呼ばれる1つのグループに由来している。

「美しい標本です。白亜紀の新鳥類の標本として、初めて本当に美しいと言えるものです」と、中国の北京にある古脊椎動物・古人類学研究所の化石鳥類の専門家ジンマイ・オコナー氏は称賛する。

オコナー氏によると、今日の鳥の祖先にあたる白亜紀の鳥の化石のほとんどが「断片的で疑わしいもの」だったが、今回の発見により、恐竜時代に暮らしていた現生鳥類の保存状態の良い化石がさらに発見される希望が出てきたという。なお、氏は今回の研究には参加していない。

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