薬効かないうつ病に 保険もきく磁気刺激治療の仕組み抗うつ剤の効果が得られない患者の3割で症状がほぼ治まる

日経ヘルス

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うつ病は患者数が約100万人ともいわれる身近な病気。薬の効かないうつ病の人に対して患者の頭部に磁気刺激を当てるrTMS療法が保険適用になった[注1]

うつ病と診断されたら、仕事の量を調節して、しっかり休養することが大切だ。症状が中等症[注2]以上の患者では、抗うつ剤による治療が検討されるが、すべての患者で効果が得られるわけではない。1剤以上の抗うつ剤を処方しても十分な効果が得られない成人のうつ病を対象とした治療法として登場したのがrTMS(反復経頭蓋磁気刺激)療法。これまで自由診療で行っていたクリニックはあったが、2019年の6月から保険適用となった。rTMSでは、10 Hzの変動磁場によって起きた電流で、脳の特定部位を刺激する(下図)。

コイルに電流を流して変動磁場を生成すると、コイルの平行面に沿って逆方向の渦電流が生じる(ファラデーの電磁誘導の法則)。この渦電流によって経頭蓋的に大脳皮質を反復刺激して、皮質や皮質下の興奮性を変化させるのがrTMSの原理。うつ病では活性が落ちると考えられている背外側前頭前野を刺激部位として選択する。図は鬼頭伸輔・編『うつ病のTMS療法』(金原出版)より。

東京慈恵会医科大学精神医学講座准教授の鬼頭伸輔さんは「うつ病では、思考や判断力に関わる背外側前頭前野の働きが低下し、不安や怒りなど感情を司る扁桃体が過剰に活動している。rTMSで背外側前頭前野を刺激することで両者のバランスを回復する」と解説する。

効果は抗うつ剤と同程度だが「作用メカニズムが異なるため、抗うつ剤が効かなかった患者でも効果が期待できる」(鬼頭さん)。国内の臨床研究でも中等症の患者の約36%で寛解(症状がほぼ治まった状態)が得られた(下グラフ)。

うつ病スコア(ハミルトンうつ病評価尺度)では14点以上が中等症。グラフは平均値。患者14人にrTMS療法を6週間行ったところ、5人(約36%)で症状が寛解した。(データ: J Neuropsychiatry Clin Neurosci;29,2,155-159,Spring,2017より鬼頭さん提供)

rTMS療法では、週5日、4~6週間の通院治療が行われる。「患者は治療を開始してから2~4週間で効果を実感できるようになる」(鬼頭さん)。気分が晴れやかになれば、行動する気力が湧いてくるという。患者からは「数年ぶりに自分から買い物などに行く意欲が出てきた」「頭の中の“もや”が晴れて、集中力が出てきた」などといった声が聞かれるそうだ。

保険適用を受けた「NeuroStar TMS」という装置を用いたrTMS療法。治療当初に痛みを感じる人もいるが徐々に慣れるという。標準的な治療は、講習を受けた日本精神神経学会認定の専門医の指示のもと、1回約40分、それを週5日、4~6週間続ける(治療1クール)。3割自己負担の場合は1回3600円(初診料・再診料などを除く)。写真提供:鬼頭さん

外から磁気を当てるだけで脳の機能を改善するrTMS療法はうつ病以外への効果も期待されている。現在、脳梗塞後のリハビリ、強迫性障害、依存症などを対象とした臨床研究が世界中で行われている。

なお、今回rTMS療法を保険で受けられる医療機関として、認知行動療法の施設基準を満たすなど、いくつかの基準が設けられた。治療を希望する場合は、大学病院など総合病院の精神科や地域の精神科病院で相談するといいだろう。

(ライター 荒川直樹)

[注1] 保険適用されるのは精神科病院や大学病院の精神科(いずれも入院治療が可能で作業療法のための設備があるなど基準あり)などでの診療。保険診療で認められているのは4週間から6週間の治療のみ。

[注2] うつ病の症状は、軽症、中等症、重症に分かれ、中等症は仕事や対人関係において、「困難」な状態。

鬼頭伸輔さん
東京慈恵会医科大学精神医学講座 准教授。2003年よりうつ病患者におけるrTMS療法の本格的な臨床研究に取り組んできた。岩手医科大学医学部卒業。国立精神・神経医療研究センター病院精神先進医療科医長、2009年米ハーバード大学留学などを経て、2017年より現職。

[日経ヘルス2019年10月号記事を再構成]

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