日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/4/11
それぞれの形に合わせてカットされたアクリル板に乗せられて、分析を待つ断片(PHOTOGRAPH BY REBECCA HALE, NGM STAFF)

シャープ氏を死海文書の世界へ引き込んだのは、テネシー州の医師で学芸員のウィリアム・ノア氏だった。2003年、ノア氏は巡回展覧会用に1700年前の「ヨハネの福音書」のパピルスを購入しようとしていたが、その資金を横領したとして、古文書取引業者の故ブルース・フェリーニ氏を訴えた。フェリーニ氏は他からも訴訟を起こされ、それが元で破産に追い込まれた。

この騒動でノア氏の手元に舞い込んだのが、フェリーニ氏の所有していた死海文書のごく小さな断片2枚だった。もともとはカンドー家所有のもので、1枚は「エレミヤ書」の一部、もう1枚はユダヤ教指導者が書いた「創世記」の注解書の断片だった。「私たちの間では、死海コーンフレークと呼ばれていました。あまりに小さかったので」と、ノア氏は笑う。

ノア氏は、これらをカンドーの家族に戻そうとしたが、カンドー家は安値でそれらをノア氏とシャープ氏に売ることで同意した。ノア氏によると、カンドー家とシャープ氏は、この取引で出会ったという。その何年か後に、カンドー家はもう少し大きな創世記の断片を直接シャープ氏に売り渡し、それが後に聖書博物館のコレクションに加えられることになる。

ノア氏もシャープ氏も、買い取った断片は全て本物であると、著名な学者たちのお墨付きをもらったと主張している。

「一体どういうことなんでしょうか。そこが問題です。なぜこんなことになったのか。世界的な学者たちが誰も気づかなかったなんてことがあり得るんでしょうか」と、ノア氏は言う。

死海文書の学者で2019年にプリンストン神学校を定年退職したジェームズ・チャールズワース氏は、シャープ氏の断片を鑑定したひとりだ。ナショジオへのメールに回答したチャールズワース氏は、過去に鑑定を依頼されたときは、おそらく本物だがクムラン洞窟の死海文書とは書かれた時代と場所が異なるかもしれないと報告したとしている。だが、写真を改めてみると疑問がわいてきたという。「今見直してみると、文字の書き方が怪しいです」

また、何も書かれていない古代の皮革が取引されているのも見たことがあるともいう。「何も書かれていないから何の価値もないと、ベドウィンに言ったことがあります。あのとき、どうやったら価値をつけられるのか、うっかりアイデアを与えてしまったかもしれません」

ナショジオは、ウィリアム・カンドー氏にメールで取材を申し込んだが、この記事が書かれた時点で回答は得られなかった。カンドー氏はグリーン氏に7点の断片を売っているが、過去のナショジオによるインタビューで、自分の売った断片は全て本物であると答えていた。

(文 Michael Greshko、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2020年3月25日付]

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