
米国ワシントンDCの聖書博物館が所蔵する「死海文書」が、すべて偽物であることが判明した。死海文書は、今から1800年以上前に書かれたとされるヘブライ語の聖書とその写本で、聖書博物館の4階常設展示室には16点の断片が展示されていた。
博物館が依頼していた外部の調査チームは2020年3月13日、これらが真っ赤な偽物であるという結果を発表した。どれも収集家、博物館の創立者、世界的な聖書学者をも欺くほど精巧に偽造されていた。
美術品詐欺の捜査が専門のコレット・ロール氏率いる調査チームは、200ページ以上にわたる報告書を提出し、断片自体は古代の皮革を使ったと見られ、文字は現代になって書かれたもので、本物の死海文書に見せかけるための細工が凝らされていると説明した。「これらの断片は、人をだます目的で偽造されたものです」と、ロール氏は述べた。
2017年の開館以来、聖書博物館は所蔵する死海文書を鑑定するために資金を出し、そのうち5点をドイツ連邦材料試験研究所へ送っていた。2018年に公表されたその結果は、5点はおそらくすべて現代の偽造品であるというものだった。
顕微鏡による調査
残りの断片についてもはっきりさせるため、博物館は2019年2月にロール氏の会社アート・フロード・インサイトに全16点の詳細な調査を依頼した。ロール氏は、米ジョージ・ワシントン大学で美術史の修士号を取得した後、国際美術犯罪を学んだ。現在は偽造品を調査したり、連邦捜査官に対し文化遺産に関する訓練を行ったりしている。

ロール氏は早速、5人の美術品保存修復士と科学者から成るチームを結成、2019年2月から10月にかけて調査を実施し、それぞれの結果をまとめた。同年11月に報告書を書き上げたチームは、16の断片が全て偽造品であるという意見で一致した。
まず、そもそも素材が本物とは違っていたという。本物の死海文書は、ほとんどすべて羊皮紙に書かれているが、聖書博物館のものは少なくとも15点が、皮をなめした皮革で作られていた。皮革の方が厚みがあり、表面はごつごつして、繊維のような質感がある。
調査チームは、皮革自体は古代のもので、おそらくどこかの砂漠に埋もれていた靴かサンダルの切れ端ではないかと推測した。断片のひとつには、人工的に開けたと思われる小さな穴が並んでいた。ローマ時代の靴にも、似たような穴が開けられている。
調査に参加したサイエンティフィック・アナリシス・オブ・ファイン・アート社の社長ジェニファー・マス氏は、皮革が琥珀(こはく)色の液体に浸されていたとする分析結果を発表した。その液体は膠(にかわ)ではないかと、マス氏は推測している。その処置によって、皮革が安定化し、表面はなめらかになって文字が書きやすくなっていた。そのうえ、本物の死海文書にそっくりな見た目になったという。本物の羊皮紙は、数千年の間にコラーゲンが分解されてゼラチン状になり、それが固まって、液体のりに浸したような弾力のある質感が出ている。