鎌倉は安心できるホーム 帰るとまた頑張ろうと思える
湘南をベースに多方面で活躍する女性たちに湘南在住のライターが「身体、精神、社会的により良い状態であること」を指す「Well-beingな生き方」をテーマにインタビュー。取材したのは、一般社団法人エシカル協会の代表を務める末吉里花さん。20代の頃、TBS系テレビ番組『世界ふしぎ発見!』のミステリーハンターとして世界各国を旅する中で、環境問題や社会課題を目の当たりにした末吉さんは、身近なことからできる社会変革活動をスタートしました。鎌倉での暮らしや信条、エシカル協会立ち上げの経緯について聞きました。
海外で疲れたとき「帰ったら鎌倉のあのお店へ行こう」
―― 幼少期は海外での生活も経験したそうですが、末吉さんにとって鎌倉とはどんな場所ですか?
末吉里花さん(以下、敬称略) 父の仕事の関係で、生まれたのはニューヨークでした。生後すぐに帰国しましたが、そのとき住んだのが曽祖母の時代から代々暮らしてきた鎌倉でした。その後、幼稚園の頃に同じく父の仕事でタイへ行き、小学3年で帰国。さらに中高6年間は再びニューヨークで過ごしました。私にとって、日本での暮らしのほとんどが鎌倉なので、どんな場所にいても鎌倉のことを考えるだけで安心します。まさにホームですね。
仕事柄、地方や海外へ行く機会も多いのですが、旅先でどれだけ疲れていても、「帰ったらあれをしよう、あのお店へ行こう」など、鎌倉での日常を想像するだけで頑張れる。鎌倉駅に降り立った瞬間に感じる匂いや受ける風など、空気感が違う気がします。鎌倉はリセットできる場所であり、また新たに頑張ろうと思える場所です。
―― 鎌倉をこよなく愛す末吉さんですが、鎌倉で暮らす魅力ってどんなところですか?
末吉 このエリアは自然が身近にありながらも、都内へのアクセスも良いので、自然と都会の双方を、生活スタイルに合わせながら味わうことができるのが魅力の一つだと思います。
加えて、歴史や文化が根付いていることも魅力です。文化的な遊びや、自然の中での遊びにたけた大人がたくさん住んでいます。また、自然と共に生きようとする人たちが多いので、環境への意識も他と比べると高いなという印象を受けます。環境に配慮したお店や取り組みが多いこともうれしいですね。
お気に入りの「ナチュデコ 」と「たらば書房」
―― 地元にいる時間はどんなことをして過ごしますか? また、鎌倉には新しいお店が次々にオープンしていますが、よく行く場所、お気に入りの場所やお店などあれば教えてください。
末吉 長く住んでいる割には、新しいお店などは全く知らなくて……。というのも、家で過ごす時間が大好きなので、鎌倉にいるときはほとんど家から出ないんです(笑)。部屋で読書をしたり、映画を見たり、ご飯を作ったり、ごく普通の生活をしています。
お気に入りの場所は、自宅近くにある光則寺というお寺です。どんなに心がざわついていても、そこへ行くとすーっと心が整う気がするんです。他に外せないのは、打ち合わせなどにもよく使わせていただく「ナチュデコ 」というカフェと、鎌倉駅近くの小さな本屋「たらば書房」。昔から本を選ぶ時間は至福です。
どんなときにも笑顔でいること それが信条
―― 末吉さんにとって、人生において大切にしていることや、これだけは譲れないことなどを教えてください。
末吉 常に笑顔でいることは、いつも心がけていることの一つです。笑顔でいたら、良いことがどんどん循環するように感じませんか? ミステリーハンターとして世界中を訪れていた際にも、言葉が通じない場所では、笑顔が一番の武器になることを実感しました。
現在は社会的な活動をしているため、意見が対立することがあります。時には、全く知らない人から心ないことを言われたりもします。けれどもあるとき気づいたんです。こちらが笑顔で返すと、相手の反応が違うことに。笑顔って、誰もが持っているものですし、無限の力があります。ほんの少しの心がけで、人に与える印象が変わりますし、何より自分自身が気持ちいいですよね。
―― 健康や美容のために気を付けていることはありますか?
定期的にトレーニングはするよう心がけています。あとは、食べることが好きなので、バランスよく食べることでしょうか。「you are what you eat(食べたものはあなた自身である)」という言葉がありますが、本当にこの通りだと思います。料理も好きなので、できるだけ無農薬の素材を選んだり、体に良いものをいただいたりするようにしています。
キリマンジャロ登頂で目の当たりにした現実
―― 「エシカル」という言葉は、ここ数年でようやく見聞きするようになりました。2015年に末吉さんが中心となって立ち上げた「一般社団法人 エシカル協会」は、どんな経緯で設立に至ったのですか? また、具体的な活動についても教えてください。
末吉 エシカルとは、英語で「倫理的な」という意味を持ちますが、私たちの協会では「法律の縛りはないけれども多くの人が正しいと思うこと。または本来人間が持つ良心から発生した社会的規範を意味します。そこから派生して、今では、人や社会、地球環境、地域に配慮した考え方や行動のことを指すようになりました」と説明しています。
私が環境問題をはじめ、さまざまな社会課題に関心を抱くようになったきっかけは、テレビ番組の取材を通してさまざまな世界を見て回るうちに、環境をはじめ多くのものが犠牲になっている構造を知ったからです。
特に、キリマンジャロ登頂の際に目の当たりにした光景が忘れられない体験となりました。その光景とは、温暖化のため、大きく減退してしまった氷河の姿です。このとき、日本の人たちに伝え、改善に導く活動をしたいと強く思いました。
―― その後、フリーアナウンサーとして仕事をする傍ら、環境問題や途上国の生産者と先進国の消費者が対等な立場での取引を促すフェアトレードの活動に取り組むようになったのですね。
末吉 はい。ただ、環境問題というのは幅が広過ぎて、自分が関わることに意味があるのかと自問自答したこともありました。そんな折、フェアトレードブランドをグローバルで展開するピープルツリーという会社の創設者であるサフィア・ミニーさんに出会い、私の進むべき方向性が確立されました。
彼女が取り組んでいることは、環境だけでなく、途上国の生産者に仕事の機会を与えるという意味でも、大変意義のある活動です。私自身、ファッションが大好きだったので、自分が好きなことを通じて世界が変えられたらいいなと思いました。
そこで、フェアトレードについて専門的な知識を持つ人、実践できる人を増やしたいと考え、2010年から「フェアトレード・コンシェルジュ」という連続講座を1年に2回ずつ定期的に開催し始めました。
―― フェアトレード・コンシェルジュ講座は、時代の流れもあってか、毎回人気だったようですね。
末吉 ありがたいことに、初回から約30人が集まり、その後もどんどん広がっていきました。コンシェルジュたちのネットワークが増えてきた2015年、さらに社会的に責任を持って活動していきたいと考え、フェアトレード・コンシェルジュの第1期生であった2人と共にエシカル協会を立ち上げることができました。
エシカル協会代表理事 / 日本ユネスコ国内委員会広報大使。慶応義塾大学総合政策学部卒業。TBS系テレビ番組『世界ふしぎ発見!』のミステリーハンターとして世界各地を旅した経験を持つ。日本全国の自治体や企業、教育機関で、エシカル消費の普及を目指し講演を重ねている。著書に『はじめてのエシカル』(山川出版社)、新刊絵本『じゅんびはいいかい?~名もなきこざるとエシカルな冒険~』(山川出版社)ほか。東京都消費生活対策審議会委員、日本エシカル推進協議会理事、日本サステナブル・ラベル協会理事、地域循環共生社会連携協会理事。https://ethicaljapan.org
(取材・文 富岡麻美、写真 佐野竜也)
[日経ARIA 2020年1月8日付の掲載記事を基に再構成]
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