スピード重視で突っ走る テンセントやザラの大胆戦術リード・ホフマン、クリス・イェ『BLITZSCALING』より

『BLITZSCALING(ブリッツスケーリング)』 リード・ホフマン、クリス・イェ著 滑川海彦・高橋信夫訳 日経BP
『BLITZSCALING(ブリッツスケーリング)』 リード・ホフマン、クリス・イェ著 滑川海彦・高橋信夫訳 日経BP

「たとえ行き先が見えなくてもいい、なにがあろうと効率よりスピードを優先するという戦略はわれわれのビジネスで決定的に重要なポイントだ」

ビル・ゲイツは、長年の友人であり、シリコンバレーでヨーダと慕われるリード・ホフマンの著書に、こう序文を寄せた。リード・ホフマンは、ペイパルの創業に加わり、後にリンクトインの共同創業者としてプロフェッショナル向けの世界的なネットワークをつくった。そのホフマンが成功の秘訣として解説するのが効率やリスクを無視して、とにかくスピードを上げて成長しようという「ブリッツスケーリング」だ。中国やシリコンバレーなど、数年で急激な成長を遂げる企業はだいたいこの作戦を採っている。最近翻訳刊行された『BLITZSCALING(ブリッツスケーリング)』(滑川海彦・高橋信夫訳、日経BP)から、圧倒的に成長した3つの事例を紹介しよう。

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テンセント――大きなリスクとスピードで5000億ドル企業に

中国のテンセントは、インスタントメッセージの「QQ」を提供していたが、2010年に開始したソーシャルネットワーク機能をもつウィーチャットが転機となった。その後、時価総額5000億円前後の巨大企業に成長したが、これもリスクや効率より速さを優先するブリッツスケーリングだった。

 テンセントのポニー・マーは、社員のアレン・チャンからのメールを読んだ。チャンはメールで「テンセントがKikに対抗できるようなスマートフォン向けの独自のソーシャルメッセンジャーを開発する必要がある。それもできるだけ早くリリースできなければならない」と結論していた。
 チャンの提案が意味するところは、ビッグチャンスであると同時にビッグリスクでもあった。望むような結果を出せるかどうかも不確実だった。新しいメッセンジャーは若いユーザーにアピールするかもしれないが、いわゆるカニバリズムとなって既存のサービスにダメージを与える可能性もあった。さらにテンセントは、チャイナモバイルなどの大手通信事業者と提携し、QQユーザーが携帯電話にSMSを送信するごとに40パーセントの手数料を得ていた。新サービスはテンセントの財務を悪化させると同時に、中国最大の企業との関係を危険にさらす可能性があった。社員1万人規模の上場企業なら、決定の前に委員会をつくって是非を検討させるのが普通だった。
 しかしポニー・マーは普通の経営者ではなかった。マーはその夜のうちに決断し、チャンにプロジェクトを進めるよう指示した。チャンはプロダクトを開発するために7人のエンジニアを含む10人のチームをつくった。
 わずか2カ月の間に、チャンの小さいチームは、モバイル優先のソーシャルメッセージ・サービスを開発した。微信(ウェイシン)のデザインはミニマリスティックでシンプルだった。微信とは中国語で「マイクロメッセージ」を意味する。このサービスは中国の外では「ウィーチャット」として知られるようになる。
 続いて起きたことは驚異だった。チャンがマーにメッセージを送った運命の夜からわずか1年4カ月後にウィーチャットは1億人のユーザーを獲得した。さらに6カ月後にユーザー2億人、その4カ月後には3億人に成長した。
(『BLITZSCALING』イントロダクション)
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