素材のおいしさがよく分かる「素たらこスパゲティ」(890円・税別)

このように名古屋名物のうなぎの「ひつまぶし」のように、いや、それ以上に1つの料理で3度も4度も変化が楽しめるのだ。

「オリジナルで開発した生パスタは希少な国産硬質小麦を使用しており、しっかりと小麦の味がするのが特徴です。モチモチとした食感を出すため、また、熱いだしをかけても伸びないように『タピオカ粉』を混ぜ込んで打っています。たらこは選別された皮の薄い高級グレードのものを軽くあぶってレアな状態で、できるだけ焼きたてを出すことにこだわっています」と中島さん。

開発に苦労したのは「素たらこスパゲティ」と名付けられた、私たちがよく知るスタンダードなタイプのもの。具が入っていない『素うどん』やもりそばのように、シンプルであるがゆえに素材そのものの味がわかる一品だ。

「お客さまから『普通のたらこスパゲティをください』といわれると思ってメニューにのせることにしました。たっぷりたらこを食べていただきたいのですが、そうするとどうしても塩辛くなってしまう。そのバランスのとり方に苦労しました。オオバを混ぜ込んだ高級な発酵バターを添えることで、味に丸みをつけ、ちょうどよい塩気に感じられるようにしました」(中島さん)

さて、たらこスパゲティが生まれたのは1960年代。その発祥の地は渋谷だという。スパゲティ専門店「壁の穴」がキャビアのパスタから着想を得て編み出したという。

「『たらこスパゲティ』を画像検索すると、たらこをまぶして、シソやノリを散らした同じような写真ばかりがズラリと出てくるんです。つまり、誕生以来、何も変わっていない。それだけ、素朴で完成度が高いともいえるし、誰も変化を望んでいないともいえます。これを違った形で提案することは勇気がいることでした」(中島さん)

いわれてみれば、海外の料理から派生して日本独自の発展を遂げたカレーやラーメンにはさまざまなバリエーションがあるのに対し、同じく海外の料理から派生したたらこスパゲティは約60年間、ほとんど「進化」していない。だが、「誰も変化を望んでいない」わけではなかった。

昭和生まれのたらこスパゲティが令和になって発祥の地・渋谷で「進化」を遂げた。今は、新型コロナ感染防止のための外出自粛により渋谷の街も閑散としているが、終息した暁にはその進化した姿、ぜひ目と舌で味わっていただきたい。

(ライター 柏木珠希)

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