パニックになる人ならない人 買い占めにみる生存本能

日経ナショナル ジオグラフィック社

例えば、ニュースで盛んに飛行機事故が報道されると、自分の乗る飛行機が墜落する状況を想像して、飛行機に乗ることのリスクを過大評価してしまう。「そのシナリオを頭のなかで簡単にシミュレーションできてしまうことが、判断力を鈍らせます」

楽観主義または悲観主義へ偏ってしまう人にも、同じことが言える。悲観主義者は、起こりうるあらゆる破滅的シナリオを思い描くのを止められず、パニック買いをする。逆に楽観主義者は何も悪いことなど起こるはずがないと考えがちだ。そういう人は、コロナウイルスで重症化しやすい要因があるにも関わらず、自分は健康だから平気と思い込んでバーに足を運ぶ。「そうすることで、自分は大丈夫だと感じられるのです」と、ビショップ氏は説明する。

パニックにもメリットはあるのか?

両極端な例は別にしても、この時期に急激な不安を抱いている人は多いだろう。

災難に直面したとき、ある程度の不安を感じるのは良いことだ。不安が動機付けとなって、警戒心とエネルギーのレベルが高まる。手をよく洗い、ニュースに注意を払うようになる。もちろん、食料品を備蓄することも良い。

米デラウェア大学疫学科の創設者で、公衆衛生対策の専門家でもあるジェニファー・ホー二ー氏は、少しばかりのパニックが役に立つこともあると指摘する。特に、米国人は他の国と違って、人との接触制限や隔離措置といった公衆衛生上の指示に従うのが昔から苦手だ。

「そういう意味では、少しはパニックを起こしたほうが、自分の行動が実際に他の人に大きな影響を与えることを理解できて、生産的だと思います」

一方、長期にわたって続く不安は耐えがたい。ひとつには、不安になればなるほど、脳がパニックモードになっていくのを抑えられなくなる。恒常的なストレスは、理性的に物事を考える脳の部分を萎縮させ、さらにパニックを悪化させるとの研究結果がある。

私たちの身体は、急性のストレスや不安に、何週間も何カ月も耐えられるようにはできていないとビショップ氏は指摘する。短期的にはエネルギーがぐんと増えたとしても、次第に疲弊して気分が落ち込むようになる。これが、最終的に何を意味するのだろうか。自宅に引きこもってストレスの限界に達した人々が、パンデミックがピークを迎える前に外に出るようになれば、どんな事態を招くだろうか。

2009年に起こったH1N1型インフルエンザのパンデミックで緊急対応チームの訓練に当たったホー二ー氏は、不確実性を減らすことがパンデミック対策の効果を上げるために重要だと話す。

新型コロナウイルスは、全く未知のウイルスというわけではない。SARSとMERSの経験から、コロナウイルスについてはかなり多くのことがわかっている。

「現在行っていることの多くは、感染拡大を抑えるために取られる典型的な公衆衛生対策です。ただ、今回は、これまでよりもはるかに大きな規模で起こっているだけのことです。クルーズ船の隔離は、ノロウイルスや季節性インフルエンザなど感染症が流行したときにはいつも取られている措置です」

(文 AMY MCKEEVER、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2020年3月20日付の記事を再構成]

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