
急速に広がる新型コロナウイルスへの対策として、世界中の国々が職場や学校、人が集まる場所を閉鎖し始める中、英国が2020年3月13日に発表した戦略は波乱を呼んだ。
英国は初め、多くの人が集まるイベントの禁止や移動制限などの厳しい措置を採用しないことを選択した。ウイルスを完全に叩きのめすのではなく、段階的な制限によって抑え込んでいくという戦略に、医療関係者の多くは驚いた。
この戦略は、「十分な数の人が軽く発症し、免疫をつけること」による「集団免疫」の獲得を狙ったものだと、英国政府の首席科学顧問パトリック・バランス氏は同日に英テレビ局スカイ・ニュースで語った。
もし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるリスクがそれほど高くなければ、ウイルスを野放しにして早々に集団免疫を達成する手もあるだろう。しかし、実際にそうしたシナリオをとった場合、入院や集中治療を必要とする人が大量に発生し、医療サービスの収容能力を超えてしまうことがわかっていた。
英インペリアル・カレッジ・ロンドンは、アウトブレイク(集団感染)で病院がどれだけひっ迫するかを公表した。それを受け16日、英国は突如方針を変え、他人と一定の「社会的距離」を保つ対策を新たに導入。ジョンソン英首相は20日以降、全てのパブ、レストラン、ジム、映画館を閉鎖するよう指示した。
それでも、集団免疫が新型コロナウイルスの抑制に果たす役割を問う意義はある。それは、ワクチン開発の成否や、あるいは社会的距離をとる措置を解除したときに、再び感染が拡大するかどうかに関係しうるためだ。
集団免疫とは何か
ウイルスはひそかに感染する。変装して宿主の細胞に侵入し、免疫が反応するより早く活動を始める。細胞は、病原体がいることに気が付くと、免疫系に向けて警報を発する。しかし、ウイルスは一足先にスタートしているため、免疫系が追いつく前に増殖し、新しい宿主に感染することができる。
細胞の中でウイルスへの免疫反応が開始されるには24時間程度かかると、英エディンバラ大学ロスリン研究所のウイルス学者エレノア・ゴーント氏は説明する。本格的な免疫反応が起きるまでには、さらに3日ほどかかることがある。そうすると、わずか8時間程度で自己複製できるインフルエンザのような呼吸器ウイルスは、だいぶ優勢だ。
初めてかかる感染症で大変な思いをすることが多いのはそのためだ。だが、免疫系も2度目はそう簡単にだまされない。一度侵入者を退治したなら、その病原体専用の武器を用意しておき、再び現れた際に直ちに対応できるようにするからだ。だから、2度目にやってきたウイルスが、そこまで有利なスタートは切れない。