快適な眠りはどこに? 目に見える「睡眠」最新グッズ
「スリープテック」で快適な睡眠を(下)
よい睡眠が日中のパフォーマンス向上にも健康維持にもつながる。そして「よい睡眠」にとって大事なのは睡眠の「時間」だけでなく「質」でもある。多忙な日々の中、睡眠時間を伸ばすことはなかなか容易ではないが、生活改善によって睡眠の質向上を図ることはでき、その最初の一歩として注目を集めているのが「睡眠トラッカー」と呼ばれるアイテムだ。前回に引き続き、「睡眠の見える化」を実現してくれる製品の最新事情をご紹介したい。
ヘッドバンド型製品で脳波を測定し深睡眠を強化
睡眠トラッカーとしてメジャーなリストバンド型製品では、心拍数と体動から睡眠状態を検知しているが、脳波によって睡眠測定を行うより本格的な製品も登場している。2019年11月に発売された、フィリップス「SmartSleep(スマートスリープ) ディープスリープ ヘッドバンド」(以下「スマートスリープ」)だ。
フィリップスは睡眠時無呼吸症候群の検査・治療機器を長年にわたって開発してきており、今回はその技術を一般個人用に転用した形だ。ヘッドバンド型製品で睡眠時に頭部に装着して使用する。
脳波はおでこと耳の後ろの2カ所で測定する。そして覚醒を含む4段階の睡眠段階を検知するとともに、深い睡眠に到達したときにはそれが長く持続するよう、独自開発したオーディオトーンと呼ばれる音をヘッドバンドの両耳部分に内蔵されたスピーカーから流す。
筆者も最初にモニターで使用した後、自費で購入して使っている。4万円超という価格には抵抗感もあったが、実際に使ってみて生活は大きく変化した。これまで分からなかった自身の睡眠状態が、毎朝グラフと数字ではっきりと示される。睡眠の質はその前日の生活内容によって大きな影響を受け、そしてその日一日の好調・不調は、睡眠スコアと連動していた。
仕事やトレーニングで体を動かした日の夜は、深い睡眠も長時間となり、夕方以降にカフェイン摂取してしまった日は就寝直後の深い眠りが持続せず不安定になる。可視化された睡眠状態が毎朝示されることで、乱れがちだった就寝・起床時間のルーティン化、カフェイン摂取の自制、そして寝る直前や布団の中でのスマートフォン操作禁止など、いくつもの生活改善を図ることができ、日中の眠気も格段に減った。
寝室環境を自動で最適化してくれるサービス
20年3月中旬、寝具の西川とパナソニックが共同開発した最先端のマットレスが発売された。西川製のマットレスにはセンサーが搭載され、睡眠状態が計測される。センサーによって感知されるのは寝返りなどの大きな動きだけではない。睡眠中の呼吸から発生する体の微細な動きをも感知して睡眠状態を推定する。
そのデータがスマホアプリにリアルタイムに送信され、寝室内のパナソニック製の家電をコントロールし、快適な睡眠に最適化した環境を実現してくれるというものだ。
自動制御される家電にはエアコンや照明などがあり、眠りの深いときに風を送ったり、睡眠の状態をもとに照明を徐々に明るくしたりすることで快適な目覚めをサポートする。利用にはマットレスや連携する家電の購入の他、「快眠環境サポートサービス」(月額税込み990円)の利用が必要となる。
その他「睡眠トラッキング」アイテムいろいろ
オムロンの「ねむり時間計」は枕元に置いて利用する。現在は在庫限りとなっており、新たな製品は登場していないが、枕元に置いて寝るだけで、寝返りなどによる寝具の動きから寝付くまでの時間や起床までの時間を計測し、目覚めやすいタイミングでアラームを鳴らしてくれる「スッキリアラーム」機能を搭載している。
また「腕に何かを装着していると気になって眠れない」という人に人気なのが指輪型の睡眠トラッカーだ。「SLEEPON」は、18年にクラウドファンディングで1000万円以上の売り上げを達成した。本体重量わずか6グラムで、睡眠時間や睡眠段階の分析だけでなく、呼吸休止回数や寝返り回数のリポートも専用スマホアプリで確認することができる。同様の指輪型睡眠トラッカーは、海外のメーカーからもいくつか発売されている。
睡眠データ取得で何が変わる?
取得した自身の睡眠データをどう活用するのか。実際に睡眠トラッカーを導入し生活改善を図っている人たちに話を聞いた。
19年7月から小米(シャオミ)製スマートウオッチ「Mi Smart Band 4」を使い始めた自営業の川野亮さんは、計測される睡眠データが「自分の睡眠実感と一致していて非常にいい精度」と語る。購入直後3カ月ほどは毎朝、前夜の睡眠スコアを確認していたという。今も週に3~4回は見ているとのことだ。
「百点満点で示される睡眠スコアが生活改善の大きなモチベーションになっています。深く寝た自覚があるとスコアを確認したくなりますし、日中に何となく集中力が低く感じられるときにアプリを見ると深い睡眠の時間が短くスコアも低め。やはり睡眠が大事なのだなと納得し、翌日の日中パフォーマンス向上のため22時就寝、5時起床の7時間睡眠を心掛けるようになりました。数値で示されると、『80点以上はとりたい』など明確な目標設定もできます。結果、朝から午前中にかけての活動能力が高まり、新しいことに取り組む意欲も湧いてきます」
都内でコンサルタントとして働く織田一彰さんは、「健康おたく」を自称するほど健康管理意識が高い。3年ほど前からFitbitの「Charge2」を愛用している。運動時と安静時の心拍数のチェックに加え、睡眠状態のトラッキングも導入目的のひとつだった。
「睡眠状況のチェックは2~3日に1度くらい。Fitbitで睡眠トラッキングを始めてからは睡眠の質向上を真剣に図るようになり、カフェイン摂取の時間帯や量も気にするようになりました。夕方以降はカフェでも『デカフェ』のコーヒーを注文しています。いろいろ実験をする中で、やはりカフェイン摂取や筋トレなど強度の運動が睡眠の質に大きく影響することもわかってきました」。前出の川野さん同様、睡眠の可視化により睡眠の質改善を図ることができ、日中のパフォーマンスが向上したという実感が得られているという。
米シアトル在住の野辺麻子さんは、就寝前にスマホアプリ「SleepCycle(スリープサイクル)」を立ち上げ、枕元に置いて寝るのがここ5年間の日課となっている。米国に移り住んだ後、つい夜更かしして睡眠不足気味となっていた生活を改めたいと考えたのが導入のきっかけだ。今も朝起きるとまず、自分の「睡眠」をチェックする。就寝・起床の時間、睡眠の質、さらにいびきをかいていた時間やどれだけ動いたのかなども数値で示されることで、早めにベッドに入る習慣がついたという。また週ごと・月ごとの分析リポートも見やすく、たとえば深酒しがちな金曜日の夜はいびきや体動も多く、睡眠の質が下がりがちだという自身の睡眠の傾向性も理解できたそうだ。
新型コロナウイルスの対策として、手洗いと咳エチケットに加え、バランスの良い食事と十分な睡眠で体調を整えることの重要性もあげられている。睡眠不足は免疫力の低下を引き起こし、さまざまな病気を引き起こす「万病のもと」だ。
多くの人が睡眠の重要性を認識しているが、実際「自分の眠りがどうなのか」現状が理解できないことには改善もままならない。今回紹介したアイテム以外にも「睡眠の見える化」を実現してくれる製品やサービスはいろいろある。仕事環境の変化などにより日中の睡魔との闘いも増えがちなこの春、睡眠改善にむけての最初の一歩を踏み出してみてはどうだろうか。
(ライター 和田亜希子)
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