当初は17年度の待機児童ゼロが目標だった
とはいえ、急拡大する保育ニーズを満たし切れたとは言えず、自治体の施策が後手に回っていた感は否めません。本調査が始まった15年当時、政府は「17年度末までの待機児童ゼロ」を目標に掲げていました。
しかし就業意欲がある女性が増えたことで待機児童はますます増加。日経DUALが16年調査で「17年度末までの待機児童ゼロは達成できそうか」と聞いたところ、「達成できそう」と答えた自治体は38.1%止まりでした。当時は保育需要のピークを「17年度」と予想した自治体が最も多かったのですが(20.4%)、実際はその後も保育ニーズは高まり続けました。
その後政府は、待機児童ゼロ達成の目標時期を「20年度末」に修正。今回の19年の調査では、その目標が達成可能かどうか聞きましたが、20年度末までの待機児童ゼロ達成が「十分達成可能」「ほぼ達成可能」と答えた自治体は、合計で55.3%。16年調査時よりは達成見込みが増えたものの、まだ半数の自治体で、待機児童ゼロ達成が政府の目標よりも遅れる見込みである状況が明らかになりました。
この結果を受けて池本さんは、「自治体にとっては、保育需要の予測の難しさも課題の1つ」と分析します。「都市部の場合、大型マンションができて子どもの数が一気に増えたり、専業主婦が多かった地域で女性の就業率が上がったりすれば、保育需要は高まります。一方で、将来的に子どもの数がますます減少していくと予想される中、保育施設を増やしすぎることへの懸念もある。そのバランスをどう取っていくかが難しい」
一方で、待機児童ゼロを達成できる見込みの自治体にとっては、「量から質を求める段階に来ている」と池本さん。「保育施設が増え、保育時間が延びている一方、保育士は不足。こうした中で心配なのは、子どもの安全対策です。保育施設などにおける負傷事故の件数は年々増えています(内閣府「教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議年次報告(令和元年)」より)。保育施設内での虐待も報じられており、対策が急務となっています」
病児保育の枠はやや増えている
次に病児保育です。「病児・病後児ともに施設がある」と回答した自治体の割合は、16年の68.0%から19年は76.5%と、8.5ポイント増加。1日の最大収容人数の平均も、19.7人から27.6人へとやや増加しました。

病児保育は、共働きの親にとっては欠かせません。ただ池本さんは、「自治体の努力で施設を増やすことだけが解決策ではない」と話します。「海外では病児保育の話をほとんど聞きません。それは、企業の看護休暇制度が整っており、子どもが病気になったときには親が気兼ねなく休めるから。日本は、『子どもが病気になっても仕事に行かねば』という意識が強く、しかもその負担を女性だけが担うケースがまだ多いと感じます。本来は、母親だけでなく父親も看護休暇を取りやすくするなど、企業の働き方改革とセットで考えるべきで、それでも困った場合の受け皿として病児保育が存在する、という形が理想的だと思います」
学童保育はいまだに課題も
学童保育については、「小3までの希望者全員が学童保育に入れるか」という趣旨の設問に、「いいえ」と回答した自治体(待機児童がいる自治体)の数を比較しました。
19年4月時点で学童保育の待機児童がいる自治体の割合は50.8%と、いまだに高く、16年の55.8%から5ポイントしか減っていません。待機児童の平均数は15人減りましたが、それでも、希望する全員が学童保育に入れる状況とは言えません。7割以上の自治体が「3年以内に学童保育の定員を増やす」と回答していますが、子どもの成長は待ったなし。迅速な状況改善が求められます。

一方、学童保育の預かり時間は、延びている傾向が見られました。学童保育の最長預かり時間(延長含む)の平均が18時31分~19時と答えた自治体は、16年調査では46.9%しかありませんでしたが、19年調査では65.9%に増加。逆に、18時30分よりも前に預かりを終了すると答えた自治体の割合は減少していました。

学童保育の待機児童対策が遅れている理由は何なのでしょうか。「学校は文部科学省、学童保育は厚生労働省と管轄が分かれており、学校と学童保育との関係づくりがなかなか進まなかったことに加え、学童保育の指導員不足もハードルとなっています」と、池本さん。
「自治体としてはまだ『とりあえず小1の壁を解消する』という段階で、面積を増やすために学校の教室の一部を学童保育に転用する自治体も増えています。ただ、子どもの負担を考えると、それが正解なのかどうか。大切なのは、指導員の十分な確保や活動内容の充実によって、『子どもにとって行きたい学童保育を作る』こと。小学生の子どもがいる親の働き方の見直しや、学童保育以外の子どもの居場所を増やすことも重要です。『子どもにとってふさわしい放課後』についてのビジョンを、国または自治体が示して方向付けすることが必要です」