新喜劇のイロハを丁寧に教えていただいたのが、小籔千豊さんです。小籔さんも漫才コンビ解散後の入団で、新喜劇のスタイルに慣れるのに苦労されたそうです。身長の低さをはね返して舞台で目立つすべは、池乃めだか師匠に学びました。

――新喜劇屈指の人気キャラクター「すち子」は吉本興業の社員をモデルに誕生した。

ビッキーズのころに一緒になった女性社員に仕事熱心な方がおりまして。この方をモチーフに人間のずるさを膨らませていったら、大阪のオバちゃんを象徴する「すち子」ができました。

女装にも慣れて、今では5分ほどで仕上がります。「女子力」が上がり、ドラッグストアに立ち寄ると必ずコスメのコーナーで買い物し、酒井藍ちゃんに商品を薦めたりしています。

「ドリルすんのかいせんのかい」は定番のギャグ。観客から歓声が上がる(中央左がすっちーさん、右が吉田裕さん)

すち子の赤のカーディガンなどは、新喜劇の衣装を長年担当されている大槻衣裳さんのコーディネート。胸はウレタンで膨らませていますが、「これ以上大きくせんといて」とお願いしています。楽屋で変身していると、島田一の介師匠が鏡に映る谷間をチラ見するんですわ。

――吉田裕さんとの人気ギャグ「ドリルすんのかいせんのかい」は楽屋のノリから生まれた。14年、42歳で座長に就任する。

新喜劇の良い点は、誰とでもコンビを組んでギャグを披露できること。ドリルも吉田君とアイデアを出し合いながら10年ごろに完成しました。13年には朝寝坊で公演に穴を開け、謹慎処分を命じられました。テレビ出演はOKでしたので、ギターの得意な松浦真也君と「すち子&真也」を結成し、お笑いのコンテストで優勝しました。

14年5月、会社の偉い人に呼ばれて子ども役の衣装のまま出向いたら、座長昇格が内定したと。「座長に…なりたいんや!」と題したイベントも開いていましたが……。言うてみるもんですね。

妻からも「すち子ちゃん」

――舞台の上で縦横無尽に暴れ回れるのは、大切な家族の支えがあるからという。

2007年に新喜劇に入団した時、妻のおなかには長女がいました。大勢で演じる新喜劇のギャラは高くありません。「アルバイトせなあかんかも」と妻に打ち明けたら、「ずっとやないやろ?」と返されました。迷ったときに背中を押してくれる有り難い存在です。

なんばグランド花月などの通常公演は毎週火曜から翌週月曜までの週単位。月曜夜に台本の読み合わせと舞台稽古があります。出番の合間にもテレビ出演などが入ります。新喜劇入団を機に家族の住まいを静かな郊外に移し、劇場近くの「前線基地」で単身赴任を続けています。

新喜劇入団の年に長女、座長に就任した14年に次女を授かりました。娘も大きくなり、たまの休みに帰宅する私は「女子会に紛れ込んだオッサン」です。妻からは「すち子ちゃん」と電話がかかってくるし、次女と買い物に行くと「すち子ちゃん、待って~」と言われます。

ずっと応援してくれる妻ですが、吉田裕君とのギャグ「ドリルすんのかいせんのかい」については「オモロナイ」と一刀両断でした。劇場に見に来た時、ドリルが始まり、客席を見やったら全く笑っていません。慌ててやりとりを終えたら、公演後に吉田君から「兄さん、史上最短でした」と言われました。

――新陳代謝、後進育成が新喜劇の維持・発展には欠かせないと考える。

一緒に座長を務める小籔千豊さんは音楽にも活動を広げるなど才能にあふれ、ストイック。川畑泰史さんは年数十本も台本を書くなど作家の能力が抜きんでています。酒井藍ちゃんは一回り以上年下なのに、つらいことがあっても笑顔が絶えないのがすごい。

中国・上海でも公演(前列右から3人目がすっちーさん、吉本興業提供)。吉本新喜劇ワールドツアー ~60周年それがどうした!~ DVD-BOXが好評発売中。

私はギャグをふんだんに入れてお客様に楽しんでいただく芝居を心がけています。飽きられないよう変化も必要です。お茶の間やうどん屋さんの設定が新喜劇の定番ですが、観光バスの車内なども試みました。カメラマンの「須知井留シャタオ」など男性キャラも取り入れています。

昨年の60周年を機に清水けんじさん、吉田君、信濃岳夫君、諸見里大介君がリーダー(次期座長候補)に指名されました。「70周年は藍ちゃんと一緒に引っ張れ」と小籔さんから檄(げき)が飛びますが、その時私は57歳。それまでに交代し、70周年のワールドツアーは次の座長に連れて行ってもらうぐらいでないと新喜劇の繁栄はないと思います。

新喜劇はいまや約120人の大所帯。祇園花月(京都市)などの出演を合わせても数十人は出番がありません。全員の仕事に目配りする必要があります。お笑いの世界で、イジリは相手がおいしいと感じたら成立します。若手の面白さを見出し、舞台上のイジリで人気者に引き上げるのも私の大切な役目です。

新型コロナウイルスの感染防止で劇場がお休みになり、来場を楽しみにされていた方には申し訳ない限り。再開されたら、大笑いしに来てください。あっ、DVDも買うてや~!

(苅谷直政)

[日本経済新聞夕刊2020年3月23日付から27日付までの連載「人間発見」を再構成]

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