大学の医学部入試における女性差別の発覚から約2年。試験の見直しで女性の合格率には改善がみられるものの、医師の職場や働き方に課題は残る。世界的なウイルス拡大で医療崩壊の回避が急務になるなか、日本の医療現場で女性が能力を十分に発揮するためには何が必要か。専門家に聞いた。
文部科学省の調査で、10大学が入試での不適切な事案などを指摘された。女子受験生に対する入試差別やその可能性が高いとして名前が挙がったのは、東京医科大と順天堂大、北里大、聖マリアンナ医科大だった。
公正な入試に関する文科省の有識者会議の委員を務め、佐賀大学で入試支援にかかわる西郡大教授(教育情報学)は「重要なのは不合格者の納得性をいかに高めるか、どのような人材を求めているのかを大学が明確に示すことだ」と強調する。文科省は18年、合理的な理由なく特定の受験生を合格または不合格としたり、性別や年齢、現役・浪人といった属性で差をつけたりすることは不適切との指針を示した。
19年度入学者の試験では、10大学中9大学で女性受験者の合格率が上昇した。東京医科大や聖マリアンナ医大など7大学では女性の合格率が男性を上回った。

大学は20年度の男女別の合格者数を現時点で公表していない。医学部予備校ACE Academy(東京・千代田)を運営するDELFの高梨裕介代表取締役は「東京医大の志願者は前年半減したが、一昨年並みに戻った。入試制度の見直しで平常化してきた」とみる。
ただ、医学部入試で不正が相次いだ背景にある医療界の問題は今なお根深い。不正の発覚後、医療関係者からは当直や緊急手術といった業務の特性や女性のライフイベントなどを理由に、男性優遇をいわば「必要悪」と見なす声が出た。「女性医師が増えると、当直が多く肉体的にハードな救急や外科で働く医師が不足して現場がもたない」などと“懸念”する声もある。