国連の最近の報告書によると、気温上昇を1.5℃以内に抑えるには、世界全体で今後10年間、炭素排出量を毎年7.6%ずつ減らさなければならない。だが2019年には再び排出量が増えた。削減分を再生可能エネルギーで補うには、太陽光や風力による発電がこれまでの6倍のペースで成長する必要があると、報告書は指摘している。
実現するためには、鉄鋼とケーブルの生産能力の拡大、蓄電システム、送電線の整備などに大量の資源と資金をつぎ込まなければならない。しかし、米国の送電網は東部、西部、テキサス州の3系統に分かれており、陽光あふれる西部から東部に送電するには、送電網の抜本的な再構築が必要になる。
当面は、再生可能エネルギーがあまり普及していない東部で太陽光発電を増やさなければならないが、化石燃料が好まれる東部では施設の建設が許可されにくいだろう。今のペースでは国連の目標を達成できないという人もいる。
アリゾナ州ページ付近では石炭火力発電所が閉鎖に追いまれている。この流れは、もはや止められないだろう。米国では2010年以降、500カ所余りの石炭火力発電所が閉鎖され、さらに何十カ所も閉鎖される見込みだ。
2019年の石炭消費量は過去40年で最低に落ち込み、同年4月には再生可能エネルギーによる発電が初めて石炭火力を上回った。中国とインドでは今も石炭火力発電所の増設が進むが、変化の兆しは見える。中国では電力不足のときだけ操業するケースが多く、インドでは2018年に再生可能エネルギーによる発電量の増加が石炭火力による増加を上回った。
コロラド州にある米国立再生可能エネルギー研究所(NREL)では、研究者のデビッド・ムーアに会った。白衣を着て手袋をはめたムーアは、クレジットカードほどの導電性ガラスの板に絵筆でたっぷりと液体を塗り、それを小さな太陽電池に変えてみせた。この液体は、太陽光のエネルギーを驚くほど効率的に集める半導体結晶の一種、ペロブスカイトの溶液だ。ペロブスカイトは革命的な新技術で、太陽電池を爆発的に普及させ、価格を大幅に下げると一部で期待されている。
テキサス州は石油産業で知られるが、風力発電もさかんで、今では世界の上位4カ国に次ぐ発電量を誇るほどになっている。
米国はその気になれば迅速に動く国だと話す人もいる。第2次世界大戦中の1940年、米軍から軽量の偵察車の開発を要請された自動車メーカーはすぐさまそれに応じ、5年後の終戦までには64万5000台近いジープを生産した。「私たちは結末がわからない映画のなかにいるようなものです。ハッピーエンドにするかどうかは私たちしだいです」
米国人は変化が必要で役に立つと納得すれば、すぐに新しい技術を受け入れる。変化の大波が再び起きてもおかしくはない。
(文 クレイグ・ウェルチ、写真 デビッド・グッテンフェルダー、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック 2020年4月号の記事を再構成]