ウイルス感染の原因にもなる握手 その習慣の起源は?

日経ナショナル ジオグラフィック社

数千年前から、握手はさまざまな目的のために用いられてきた。写真は遊説中に支持者と握手を交わすロバート・F・ケネディ上院議員(PHOTOGRAPH BY BILL EPPRIDGE, THE LIFE PICTURE COLLECTION/GETTY)

あいさつとしてのキスにも、同じく豊かな歴史がある。キスは初期キリスト教に取り入れられ、宗教儀式の中で用いられた。「『ローマ人への手紙』の中で、聖パウロは信者たちに『きよい接吻(せっぷん)をもって、互いにあいさつをかわしなさい』と命じている」と、アンディ・スコット氏は自著『One Kiss or Two: In Search of the Perfect Greeting(キスは1回、それとも2回:完璧なあいさつを求めて)』に書いている。中世において、キスは忠誠のしるしとして、また財産の移譲などの契約を結ぶために用いられた。

フランス語で「ラ・ビズ(la bise)」と呼ばれるほほへの軽いキスは、現在、世界のさまざまな地域で定番のあいさつとなっている。「ビズ」の語源は古代ローマにあると言われる。ローマではキスの種類によってそれぞれ個別の呼称があり、比較的穏やかなキスは「バシウム(basium)」と呼ばれた。パリでは、頬へのキスの回数は2回が一般的で、プロバンス地方では3回、ロワール渓谷では4回となる。頬へのキスはエジプト、ラテンアメリカ、フィリピンなどでも普及している。

14世紀のペスト流行の際にラ・ビズの習慣は廃れ、復活したのは400年後のフランス革命の後だと考えられている。2009年にも、豚インフルエンザのせいでラ・ビズは一時的に行われなくなった。2020年2月末、コロナウイルスの拡大を受けて、フランス保健相はこう呼びかけてあいさつのキスを控えるよう求めた。「社会における物理的接触を減らすことが求められており、これにはキスの習慣も含まれます」

ロンドン衛生熱帯医学校の行動科学者、ヴァル・カーティス氏は自著『Don't Look, Don't Touch(見るな触るな)』の中で、あいさつとしてキスや握手が行われる理由のひとつとして、ウイルスや細菌を共有できるほど相手を信頼していることを示すというものが考えられると書いている。だからこそ、公衆衛生上の懸念事項がある時期とない時期に応じて、こうした習慣は流行したり、廃れたりするわけだ。

看護師のリーラ・ギブン氏は、1929年に学術誌『American Journal of Nursing』に投稿した研究において、腕を高く上げて指を軽く触れるそれまでのあいさつが廃れ、握手が好まれるようになったことを嘆いている。ギブン氏は、握手が容易にウイルスを拡散させることを示す過去の研究を引用しつつ、手は「ウイルス/細菌の媒介者」だと警告した。

この研究の結論としてギブン氏は、友人とあいさつを交わす際には、当時の中国人があいさつに用いていた自分の両手を組み合わせるしぐさを勧めている。「そうすれば、少なくとも自分の持つ細菌を自分のもとから出さずに済みます」と、論文にはある。

(文 NINA STROCHLIC、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2020年3月18日付の記事を再構成]

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