PCカメラ・ヘッドセット… テレワーク急拡大で品薄に
大河原克行のデータで見るファクト
新型コロナウイルス感染症の広がりに伴い、テレワークを導入する企業が増加している。東京・豊島のビックカメラ池袋本店パソコン館では、「2月中旬以降、ヘッドセットやパソコン(PC)カメラ、ポータブルSSDなどのテレワーク関連商品の販売増が顕著にみられる」(奈良井亮一店長代理)という。
全国の家電量販店やECサイトのPOS(販売時点情報管理)データを集計しているBCN(東京・千代田)の調べによると、2020年2月16日~3月15日の1カ月間のPC市場全体の販売実績は、前年同期比5.7%減であったのに対して、テレワーク関連商品の筆頭といえるPCカメラは145.6%増と約2.5倍の実績。ポータブルSSDは126.2%増、液晶ディスプレーは11.1%増、ヘッドセット(音楽用途や外出先で聴く製品を除くため、接続方式において、BluetoothやLightning、microUSB対応商品を除外して集計)は6.8%増となった。市場全体が減少しているなかで、テレワーク関連商品の売れ行きの良さが際立つ。ヘッドセットの伸び率についても、「品薄の影響がなければ、もっと売れている」との指摘もある。
いち早くテレワークコーナーを設置したビックカメラ
ビックカメラ池袋本店パソコン館は、2月19日から、7階フロアにテレワークコーナーを設置。業界に先駆けた取り組みとして注目を集めた。現在、1階フロア、3階フロアにもテレワークコーナーを拡張。それぞれのフロアをつないで映像や音声でやりとりし、テレワークを実演。それをもとにユーザーに最適なスペックの商品を選べる環境を用意している。
テレワークコーナーの設置をリードした同店の奈良井店長代理は、「新型コロナウイルスに対する危機感が今ほどではない時期から、ニュースではテレワークの広がりが指摘されていた。販売データを見たところ、PCカメラの販売台数が増加しており、店頭においても関連商品の需要が顕在化していることがわかった。そこで、テレワークコーナーを設置した。現在、ビックカメラでパソコンを取り扱っているすべての店舗にはテレワークコーナーを設置している」とこれまでの経緯を振り返る。
ビックカメラでは、東京五輪の開催を見据えて、3月下旬から4月にかけて、売り場にテレワークコーナーを設置する考えだったというが、新型コロナウイルスの影響で、それが1カ月半ほど前倒しになった。
ビックカメラ以外にも、都心部の量販店などでは、テレワークコーナーを設置する例が相次いでいる。
ビックカメラ池袋本店パソコン館の7階のテレワークコーナーは、2台のPCデスクと椅子を置き、家庭内でのテレワークの様子を演出。テレワークに使用するためのノートPC、ヘッドセット、PCカメラ、セカンドディスプレー、ハードディスクやSSD、プリンター、無線LANルーター、マウス、シュレッダー、電子メモ、のぞき見防止フィルムのほか、除菌クリーナーも展示している。これらの商品が、いわば「テレワーク関連商品」といえるだろう。
「2月下旬までは、ヘッドセットを10台購入するなど、テレワークを開始する企業がまとめて購入していくことがあった。3月に入ってからは、会社帰りに自宅用に購入していくお客様が多い」(奈良井店長代理)という。
PCカメラは高解像度が売れ筋
ジャンルごとに売れ筋商品の動向を聞いてみると、ユニークな傾向がわかる。
PCカメラでは、ノートPCなどに内蔵されている100万~200万画素程度のカメラでは解像度が低いとして、300万~500万画素が売れ筋になっているという。ヘッドセットでは、実売価格で1500円程度のものが売れ筋になっており、様々なPCで利用しやすいUSB接続タイプが主流だという。また、一日に何度もオンライン会議に出席し、長時間にわたってヘッドセットを利用する人は、フィット感に優れたものを選択したり、ミュート機能を搭載しているものを選択。なかにはゲーミング用を選ぶ人もいるという。
セカンドディスプレーは、モバイルノートPCの小さいディスプレーの代わりに利用したり、デスクトップ用として2台並べるといった用途などが中心だ。テレワークでは、作業スペースを広く取りたいというニーズが生まれているが、手軽にディスプレーを設置したいユーザーは17型未満の低価格ディスプレー、作業効率を優先するユーザーは、23~25型あるいは25~29型未満の大画面ディスプレーといったように、売れ筋のニーズは二極化している。
ポータブルSSDの売れ行きも好調だ。テレワークでは、デジタルデータのやりとりも増えるため、自宅で作業をする際にデータを保存する用途にポータブルSSDを増設して利用。今後、屋外でのテレワークを想定して持ち運び用途も視野に入れて購入しているようだ。USBメモリでは容量が少ないという理由があるようだ。ただし、いくら手軽に持ち運べるからといって、会社内のデータを不用意に持ち出すことは注意しておきたい。
ただ、全体的に品薄傾向にあるのも事実だ。中国で生産されている商品も多く、「ヘッドセットやPCカメラなどは、仕方なく在庫があるものを購入していくという場合もある。テレワーク関連商品に限らず、全体的に今後のサプライチェーンが気になる」(奈良井店長代理)と語る。
スピーカーやのぞき見防止フィルターは鈍い動き
一方、テレワーク関連商品の中で動きが鈍い商品もある。
たとえば、スピーカーだ。
テレワークの際には、相手の音声をしっかりと聞き取ることが大切だが、自宅のなかでテレワークする際に、スピーカーで大きな音を出すことは家族に迷惑がかかると判断しているようだ。そのため、スピーカーそのものの売れ行きは鈍いのが実情だ。BCNの調査でも、スピーカー(音楽用途や外出先で聴く製品を除くため、ネックスピーカーおよびワイヤレス接続の製品を除外して集計)は、前年同期比15.2%減とむしろ落ち込んでいる状況だ。
また、インクジェットプリンターも売れ行きがいいわけではない。BCNの調査では前年同期比7.0%減という結果になっている。テレワークではデジタルデータが多用されており、プリントアウトするケースが減っていること、すでにプリンターを所有しているユーザーが多いことも、テレワークが拡大しても、プリンターの売れ行き増加には直結しない要因といえそうだ。「1月のWindows 7のサポート終了にあわせてPCを買い替える際に、一緒にプリンターを購入するお客様も多かった。その反動もあるのではないか」(奈良井店長代理)とみている。ただ、テレワークの長期化とともに、プリンターの需要も増加し始めており、3月中旬には前年実績を上回っている。
さらに、無線LANルーターやのぞき見防止フィルターの動きも鈍い。無線LANルーターは多くの家庭で導入されているという背景があり、自宅でテレワークを開始するのに際して、新たに導入するケースが少ないこと、のぞき見防止フィルターは、今回のテレワークでは自宅での利用が中心となり、のぞき見のリスクが少ないことなどが影響している。
「東京五輪開催時のテレワークでは、カフェや公共施設などでのテレワークも増えると想定され、その時点ではのぞき見防止フィルターの売れ行きが期待できる。家庭でのテレワークを中心とした今回とは売れ筋商品が変わる可能性がある」とする。
新型コロナウイルスの勢いはなかなか収束しない。それにあわせてテレワークの利用はますます拡大することになりそうだ。そして、新型コロナウイルス終息後や、東京五輪後には、日本の社会に、テレワークを活用した働き方が浸透することにもなるだろう。テレワークの本格化とともに、各種テレワーク関連商品に対する関心も高まることになりそうだ。
※今回の取材は3月上旬に行いました。
(ライター 大河原克行)
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