アーバンミュージックって何? 世界の音楽界を席巻
近年、世界の音楽界を席巻していると言われているのが、アーバンミュージックだ。日本でアーバンミュージックというと、洗練されたおしゃれな音楽全般を指すことが多い。しかし、米国では、カントリーミュージックの対義語として使用されてきた背景があり、現在では主にヒップホップ/R&Bのことだ。つまり、世界の音楽界をリードする存在が今や、ヒップホップ/R&Bとなっているのだ。
先日開催された「第62回グラミー賞」のノミネート数を見ても、最多8部門は女性ヒップホップシンガーのリゾで、続いたのは6部門のラッパー、リル・ナズ・Xだ。
その盛り上がりは、ジャンル別のセールスにも表れている。米国では2017年に、ヒップホップ/R&Bの売り上げが史上初めてロックを逆転。全体を占める割合でも24.5%とロックの20.8%を上回った(ニールセン調べ)。
このトレンドを生み出す要因の1つが、音楽ストリーミングの存在だ。ストリーミングは制作した音源をすぐにそのままアップしてリスナーに届けるのを可能にした。つまり、楽曲制作において、スピード感がより重要となってきているのだ。トラックに乗せてラップをすれば1人でも自宅で楽曲が完成するヒップホップと、スタジオにメンバーと入りレコーディングが必要なバンドスタイルのロックを比べると、そのスピードの差は歴然としている。
実際18年に世界で最もストリーミング配信された楽曲トップにロックバンドは1組も入らず、9曲をヒップホップ/R&Bのアーティストが占めた(ニールセン調べ)。
そして近年国内でも若手のヒップホップアーティストたちが数多く生まれ、海外でも評価を得る例が増えている。インディーズながら18年にラッパー史上最年少で日本武道館公演を行った、8MCからなるBAD HOPがそうだ。昨年11月には、ケンドリック・ラマーやドレイクといった、ヒップホップ界の最高峰アーティストたちを手掛けたプロデューサーを迎え、配信限定のミニアルバム「Lift Off」を制作した。
こうした流れを受け、日本のレコード会社でもアーバンミュージックを意識した動きが出てきている。ワーナーミュージックは、昨年9月に新レーベル「+809」を立ち上げた。
このレーベルの特徴は2つ。アーバンミュージックに特化し、そのジャンルの有望な国内若手アーティストと組んでいくこと。もう1つは、CDではなく、世界に向けて配信限定でリリースしていくということだ。
第1弾として、気鋭のR&BシンガーFLEUR(フルール)が、新曲「DingDong(feat.A.G.O)」の配信を同月にスタート。海外の人気プレイリストにも入るなど、再生回数を伸ばしている。
20年は新人アーティストの楽曲を続々とリリースしていく予定という。今後について邦楽デジタルマーケティンググループダイレクターの栗田慎太郎氏は「日本のアーバン系アーティストと海外のプロデューサーをつなげるなど、弊社のグローバルなネットワークを積極的に活用するような試みも行っていきたい」と意気込む。
時代と共に音楽を取り巻く環境が変わり続けるなか、アーバンミュージック市場は世界ではもちろん、日本国内でもさらに伸びていきそうだ。
(「日経エンタテインメント!」3月号の記事を再構成 文/中桐基善)
[日経MJ2020年3月20日付]
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