ダイヤモンドプリンセス 医師が見たコロナ感染の実態

日経メディカル

横浜港に停泊するクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」=共同
横浜港に停泊するクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」=共同
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新型コロナウイルスの集団感染が確認されたダイヤモンド・プリンセス号で医療支援活動を行った日本DMAT(災害派遣医療チーム)。その一員として活動した京都府立医科大学救急医療学教室の山畑佳篤さんはどんな経験をし、どんな感想を持ったのでしょうか。山畑さん自身が医師・医療従事者向けに書いた記事ですが、ダイヤモンド・プリンセス号の状況については一般の人の関心も高いと思われるので紹介します。

◇  ◇  ◇

全国各地で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のクラスターが発生し、疫学的リンクのたどれない症例が発生しています。今なお新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のPCR陽性者が確認されていない県もあり、まだ見ぬ症例に対して準備を整えている段階のところもたくさんあると思います。世界的にはWHOもパンデミック宣言を出しており、感染が広がっている段階であることは間違いなく、いずれ日本でも多くの医療者がCOVID-19に対峙することになると思います。

以下の内容は、日本DMATの一員として、ダイヤモンド・プリンセス号(以下DP号)に関わる医療支援活動の中で、個人的に経験したことを皆さんと共有するために記します。DP号は、一定の限られた集団の全員に対して、症状の有無に関わらずSARS-CoV-2のPCR検査を行った稀有な事例であると考え、公開されている情報とともに一個人の体験・感想を生の声で伝えることにも意味があると考え、発信します。

活動概要

国からの派遣要請に伴う日本DMATの一員として、下記の概要で活動しました。

(1)2月14日から17日までの間、DP号の入り口において、統括DMATとして、PCR陽性の方の搬送のサポートを行いました。PCR陽性の方は全員隔離施設に入れるという前提があり、搬送の予定が組まれた方の行き先と搬送手段のマッチングを確実に行うこと、症状が悪化した人の救急搬送について調整することなどが任務です。

(2)2月18日から2月27日までの間、藤田医科大学岡崎医療センター建物(未開院)において、多数の軽症者、無症候者、同行者を受け入れるにあたり、DMATロジスティックチームの長として、本部機能をサポートしました。この施設はまだ病院として開設していない状態であり、基本的に医療処置が不要と考えられる軽症・無症候の方の短期間の受け入れという前提で、この搬送を横浜側と調整することが任務です。

DP号での感染状況

確認された1人目の症例である乗客は、1月25日に香港で下船、1月30日に発熱、2月1日にPCR陽性となりました。その後、航海予定を早めて横浜に帰港する前に2月3日から船上検疫を受け、有症状者31名のPCR検査を実施したところ、2月5日に乗客・乗員10名の陽性が確認されたことから、この日から全乗客の船室隔離が開始されました。最終的に2666名の乗客と1045名の乗員、合計3711名全員にPCR検査を施行し、696名(18.8%)が陽性、うち410名(58.9%)が無症状とされています(表1)。人工呼吸管理または集中治療室に入院した症例が37名(陽性者中5.3%)、死亡者が7名(陽性者中1.0%)となっています[注1]

乗客のPCR陽性者のうち、症状発症のピークは2月7日で、その後2月13日までなだらかに続いています[注2]。Johns Hopkins大学でまとめたデータでは、接触から症状発現までの期間は2日から11.5日で中央値は5.1日[注3]とのことであり、これらの方々は船室隔離開始前に既に感染していた可能性が示唆さ3れます。なお、無症候の方も数多くおられたこと、下船前に無症候者も含め全員にPCR検査を行う方針となって検体採取件数が増えたこと、などの影響で、PCR陽性確定者数のピークは2月17~18日になっています(図1)。ただしこれらの方々は無症候であるが故に、感染成立の時期が特定できません。

実際の感染者の症状・病像

全数検査をすると、驚くほど軽症や無症状でPCR陽性の人がいます。発熱はもちろんのこと咳や息苦しさなどの自覚症状もないため、中には「検査結果が間違いだ」と言って隔離施設への搬送を拒む人が複数いたほどです。もちろん「無症状」と分類されている人の中にも軽度の症状(軽い咳、軽度の咽頭痛)がある人は一定数含まれていたと思います。あの狭い船内で、多数の「疑い例」である人を対象に、直接接触時間を極力短くしながら、しかも多数の外国籍の方(日本語も英語も全く使えない人も多数)を含め、短時間で症状の有無を判断するには限界があります。ただ症状があったとしても、日常生活の中であるならば、その症状だけで医療機関を受診する人は半分にも満たないであろう、ぐらいの軽微な症状でした。

軽症の方の症状も、有症状に分類された方の初期症状も、実に多彩です。咳が全く出ない方、消化器症状が中心の方(気分不良、軟便などを含む)もおられます。咽頭痛を自覚する人が多いように思いますが、咽頭痛は自己申告であるため咽頭痛のみでひっかけるのは難しいかもしれません。水様下痢はいなかったように思います。

[注1]厚生労働省 横浜港で検疫中のクルーズ船の乗客・乗員に係る新型コロナウイルス感染症PCR検査結果について

[注2]国立感染症研究所 現場からの概況:ダイアモンド・プリンセス号におけるCOVID-19症例

[注3]Stephen A. Lauer, MS, PhD, et.al. The Incubation Period of Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) From Publicly Reported Confirmed Cases: Estimation and Application, Ann Intern Med. 2020. DOI: 10.7326/M20-0504

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