新型コロナウイルスは、演劇界にも大きな打撃を与えています。政府の自粛要請を受けて、2月末以降、多くの演劇公演が中止や延期となりました。公演やイベントの自粛がいつまで続くのか、先行きも不透明です。僕たち舞台俳優にとっても、こんな事態は初めての体験。不安な日々を送りつつ、仕事のあり方を見直すきっかけにもなっています。

僕が舞台から見て、客席に異変を感じたのは2月に入ってからでしょうか。ミュージカル『シャボン玉とんだ 宇宙(ソラ)までとんだ』の後半の公演では、お客さまのほぼ全員がマスクをされていました。そんな光景は今まで見たことがなかったので驚き、みんな予防に気をつけているんだと感じていました。でも、ここまで感染が広がり、公演が次々と中止や延期となるようなことが起こるとは思っていませんでした。
3月は、僕はずっと4月4日に開幕する『桜の園』の稽古に入っています。稽古場でも毎日、俳優やスタッフの間で「あそこも中止したって」「あそこはやっているみたいだ」といった会話が交わされています。何十年も舞台に立っている大先輩が、「こんなに長く公演が中止になることはなかった」と言っていました。2011年の東日本大震災のときにも自粛はありましたが、2週間以上も劇場が閉まることはなかったので、演劇界でも初めての経験だと思います。
公演の期間中に突然、中止が決まったというカンパニーの話も聞きました。その日のカーテンコールが終わって楽屋に戻ったら、「明日から中止です。今日が千秋楽になりました」と言われて、みんな泣き崩れたそうです。千秋楽って、最終日だと思ってやるから緊張するし、感動的でもあります。俳優はそこをかみしめながらやっているので、突然、「さっきのが最後」と言われると、本当につらかったでしょう。初日を迎える前に中止が決まり、1回も本番をできなかったカンパニーもあります。俳優やスタッフの心中を察すると、さぞ残念だろうと思い、悲しくなってしまいます。
僕たちの『桜の園』も、幕が開くと思って毎日稽古に取り組んでいますが、もし公演がなくなり、この1カ月の稽古に何の意味もなくなってしまったら、相当落ち込むでしょう。みんなプロだからしっかり稽古をしているし、モチベーションも保っていると思うのですが、やはり心のどこかに新型コロナが影を落としています。そして不安を募らせるのが、いつ収束するのか見えないこと。公演の自粛が緩和されても、感染の状況によってはまた中止になるかもしれず、コロナ疲れというか、心理的な疲労がたまります。
そういう精神的なダメージとあわせて、経済的にも舞台俳優の状況は厳しくなっています。これだけ中止が続くと、死活問題になりかねません。ギャラはどうなるのか、この先どうやって生活するのか。現実に今、困っている俳優やスタッフがたくさんいます。舞台がなくなったので、バイトに行くという俳優もいます。有事の際に、演劇の仕事とはこんなに基盤が弱いものなのか、と実感する毎日です。