魅力は「エモい」色 文房具のプロが推すサインペン
文房具のムック本が発売されたり、テレビやラジオなどで特集が組まれたりと、多くの根強いファンがいる文房具。そんな文房具ファンにはおなじみの、「文房具屋さん大賞2020」(主催:扶桑社「文房具屋さん大賞」実行委員会)が実施された。2013年にスタートした同賞は今回で8回目。審査には東急ハンズやロフト、TSUTAYA、有隣堂、オフィスベンダーなど11社が参加、審査員や各メーカーから推薦のあった文房具の中から「世の中で最も価値のある逸品」を選出した。
20年2月15日には「東急ハンズ 文具祭り2020 スペシャルイベント」で、文房具屋さん大賞の授賞式が開催された。受賞商品の開発者が登壇、開発秘話を披露した。
「大賞」を受賞したのは19年4月19日に発売された三菱鉛筆のサインペン「EMOTT(エモット)」。「私らしい色づかいで、毎日を彩る」のキャッチフレーズが表している通り、特徴はその色にある。
感覚で捉える色で世界観を表現したサインペン
全40色のペンは8つのテーマでグループ分けされている。基本は5本セット(1000円・税別)で販売され、「ビビッドカラー(気分が楽しくなる、あざやかな色合い)」「パッションカラー(太陽のように、はつらつとしたカラー)」「アイランドカラー(自然・生命力を感じるカラー)」「ネイチャーカラー(ナチュラルテイストな淡い色合い)」などグループごとに名前が付けられている。
三菱鉛筆国内営業部チャネル開発グループの竹井祥氏は、EMOTTに込めた色へのこだわりをこう話す。
「今までの色鉛筆やカラーペンだと、12色で決まった定番の色がずっとあった。しかしEMOTTは感覚的に『かわいい』『おしゃれ』と思ってもらえるような色みになっている」
特に人気なのは「キャンディポップカラー(心弾む、新しいけど懐かしい色合い)」と「フローラルカラー(花を思わせる優しいカラー)」だ。通常なら企画担当者から「もっと赤く」「もっと青く」などの指示が入るそうだが、今回に限っては「もっとかわいく」「もう少し控えめに」「かっこよく」といった抽象的な指示が中心だったとのこと。企画担当者と写真や図を共有しながら、「このイメージに合うように」と色を作っていったという。竹井氏は「そうした感性のやり取りをしながら作っていったのが、お客さまに受けたのだと思う」と分析する。
ペンそのもののデザインにもこだわりがある。白を基調にシンプルなデザインにしたのは「SNSを通して誰もが自己表現ができる世の中になっている。筆記用具でも自己表現をしてもらいたくて、背景に溶け込むデザインになるよう意識した」(竹井氏)ためだ。
ペンとしての機能にも力を入れている。耐久性のあるペン先を採用し、潰れにくいので0.4ミリの細さを維持できるようになっている。水性のサインペンだが、耐水性顔料インクを使用し、水にぬれてもにじみにくいのも特徴だ。
三菱鉛筆によれば、19年4月の発売直後は品切れの店舗が続出したという。その勢いは衰えることなく、現在もフル生産で商品を供給し続けているほどの人気ぶりだ。
テーマごとの色の組み合わせを前面に押し出したセット売りという販売方法と、優れた機能のペン先が評価され、今回大賞に選ばれた。名前の「EMOTT」は「エモい」からきている。ネーミングの通り情緒を感じる絶妙な色遣いで、カラーペンのファンの期待に応えたのだろう。
たたずまいが美しい、進化したボールペン
筆記用具の定番中の定番であるボールペンも進化している。今回「デザイン賞」を受賞したのがサクラクレパス(大阪市)が開発した多機能ペン「SAKURA craft_lab 004」(8000円・税別)だ。
SAKURA craft_labとは、「サクラクレパス」というブランドやそのイメージを核とし、「かいていてワクワクする筆記具をつくる」ための筆記具開発チームのこと。今までに001~003まで3種類が発売され、19年10月に発売されたのがこの004だ。2色のボールペンとシャープペンという定番の多機能ペンで、実用的な事務用品になりがちなアイテムを、アナログ感が漂うデザインに仕上げた。
特徴は下軸に使われている素材だ。ボトルグリーンとエボニーブラックには真ちゅう、アッシュグレーとガーネットレッドには洋白が使われている。洋白は銅と亜鉛とニッケルから成る合金で、500円硬貨の材料でもある。
筆記用具に洋白が使われるのは珍しい。サクラクレパス営業本部マーケティング部商品企画四課長の廣瀬泰治氏は、「多機能ペンはボディーの上部に部品が集中して重くなりがち。無垢(むく)のシルバー系の重い素材を探していて、洋白にたどり着いた」と話す。実際に商品を製造する現場でも、洋白を扱ったことはなかったとのこと。初の試みだったが、うまくいったという。頭冠の桜マークや上部に施したアルマイト加工など、細部のデザインにもこだわっている。
サクラクレパスによれば発売直後から好評を博し、売り上げは当初予想の1.3倍。一時期はメーカー在庫が無くなるほどで、高級品ながら現在までコンスタントに売れ続けているという。
SAKURA craft_labのコンセプトは「新しい懐かしい、をつくる」。机の上に置いてあると、古い時代からずっとあるような、たたずまいの美しい商品だ。「文房具屋さん大賞2018」で大賞を受賞した「SAKURA craft_lab 001」から圧倒的な個性を放ち続け、ファンの要望に見事に応えた点が評価され、今回のデザイン賞受賞となった。
デジタル時代だからこそ、アナログに立ち返っている
今回の「東急ハンズ 文具祭り2020 スペシャルイベント」の監修者で、文具雑貨のメーカーでありノベルティーグッズの企画販売を手掛けるノウト代表取締役所長の高木芳紀氏は、今年の文房具屋さん大賞の傾向についてこう話す。
「パソコンで仕事をする方が増えている中で、文字を書きたい、ノートをきれいに作りたいなど、デジタルからアナログへの揺り戻しがある。それを反映して、20年はカラーペンやサインペンなどが大健闘したのではないか」
1日中パソコンに向かい、仕事中は文字を書かない人も多いだろう。帰宅後や休日のホッと息をつきたいときに、ノートを広げて好きな言葉や日記を書く時間が現代人のかけがえのない癒やしになっているのかもしれない。
(文・写真 梶塚美帆、写真提供 東急ハンズ)
[日経クロストレンド 2020年3月12日の記事を再構成]
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