仲間思いのネズミ 傷つけるのを避ける行動が判明

日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/3/30

研究に使われたネズミは、この実験に対してさまざまな反応を示し、キーザーズ氏を驚かせた。例えば、あるネズミは最初のショックに気づくと怯えてしまい、どちらのレバーも押さなくなってしまったが、何も気にしていないようなネズミもいた。こうした多様性は「ネズミにヒトの個性に似たものがあることを示唆するもので、とても面白いと思います」と同氏は話す。

ネズミの共感性に限界がある点もヒトに似ている。報酬のおやつを3倍にして同じ実験を行うと、前回はレバーを変えて仲間に危害が及ぶのを防いだネズミが、同じレバーを押し続けるようになってしまったのだ。

「本当に面白いと思います。本音や真実を感じます」と、米シカゴ大学の神経生物学者ペギー・メイソン氏は話す。なお、メイソン氏は今回の研究には関与していない。

キーザーズ氏の実験の後半では、仲間への危害を回避したネズミに麻酔を投与して、前帯状皮質を一時的に働かなくさせた。すると興味深いことに、そのネズミは仲間を助けなくなってしまった。

利己的なのか利他的なのか?

この実験結果は、ネズミが仲間を助けたのは利己的な理由からなのか(例えば自分を落ち着かせるため)、それとも本心から隣人を助けようとしたのかという疑問を生じさせる。

別のレバーを押したネズミは、仲間の悲鳴が聞こえるように設定が変えられたとき、「他者の身になって、自分も不快な思いを経験したのです」とメイソン氏は言う。「私たちは基本的にネズミと同じ哺乳類なので、行動の動機はおそらく同じです」

カナダのマギル大学の社会神経科学者ジェフリー・モギル氏も、これは興味深い議論だと言う。「ネズミは利他的なのでしょうか? それとも、ほかのネズミがショックを与えられるのを見ると不安になるので、自分の苦痛を軽減するために仲間を助けるのでしょうか? レバーを押すのをやめることで、仲間を救っているのでしょうか、それとも自分を救っているのでしょうか?」

キーザーズ氏は、この問題に答えるのは難しいが、人間が良いことをする理由も同じくらい複雑だと言う。

さらに同氏は、どのような動機があるにせよ、他者への危害を回避しようとする衝動が、少なくとも9300万年前からあったと考えるのは、素敵なことだと思っていると付け加えた。進化系統樹の上でヒトとネズミが枝分かれしたのは約9300万年前だ。ネズミとヒトの類似点はほかにもたくさんある。例えばネズミはヒトと同じようにコカインなどの依存症になるし、メタ認知(自分の認知を認知すること)もある。そして、過密状態になると暴力的になる。

紛争だらけのこの世界で、「私たちの生物学的なしくみの中に、大昔から受け継がれてきた、平和をもたらす傾向があるということは、心強く感じられます」と、キーザーズ氏は話す。

(文 Liz Langley、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2020年3月9日付]

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