「間違ったことを覚えたくないのは、勉強もおしゃれも同じ。だから、プロに聞きました」。こう話すのは今春、都内の大学を卒業する野村恵永さんだ。「入学式前にマスターしておきたい」と、2月に大学に合格するとすぐ、動いた。

最初は友人や雑誌、ユーチューブなどの情報に頼った。しかし「イチオシの化粧品でも、自分の肌にまったく合わなかった」。そこで、野村さんは自宅近くの駅ビル内にある化粧品コーナーへ。友人と一緒だと恥ずかしいので、店内が比較的すいている平日昼間に一人で出かけ、お母さん風の美容部員に声をかけた。「親切に教えてくれました。メークの基本アイテムの説明から、ファンデーションの適量、まつげカール器の使い方まで。特に、眉で顔の印象の7割は決まると教えてもらい、眉の描き方を習って、その日はアイブロウ用のセットを購入しました」

洋服もプロに頼った。「自分が持っているお気に入りの服を持参し、それに合うものを店員さんに選んでもらった」。入学までの2カ月足らずの短期決戦で大学デビューを果たした。

大学時代は長期インターンを経験したりイベントを企画したりと、持ち前の行動力を発揮した野村さんは、メークや服装などの外見はあなどれないと話す。「ちゃんとメークができて服もきちんと選べるようになると、自分に自信がもてる。そうすると、新しいコミュニティーに参加してみようと思える。行動範囲も広がります」と笑顔をみせる。

メークやファッションを変えることだけが大学デビューとは限らない。早稲田大学4年の飛澤理夏さんは「私の大学デビューは自分の行動パターンを大きく変えたこと」という。

高校時代は勉強と部活の合唱だけの日々だった。大学でも合唱のサークルに入ったが1年の夏休みに気づいた。「私、高校の時と何も変わってない」

一念発起して有志を募り、新しい合唱グループを結成。コンクールに参加して上位入賞を果たした。授業ではコミュニケーション関連の科目を意識して受講した。「授業には、絶対友達と一緒に行かない。話しかけやすそうな人をみつけて自分から話しかける」。それを繰り返すうち、面白い友達が一人また一人と増えていった。

「でもね」と飛澤さんは後輩へのアドバイスを口にした。「1年生のときはほんとうに焦っていろいろ手を出しがち。私は頑張りすぎて体調を崩した。焦らなくていいよって言いたいです」

「私は大学に入って楽になりました」と話すのは明治学院大学3年の石黒シエルさん。高校時代は周囲に合わせることが多く、本当の自分を出せていない気がしていた。大学入学で上京。様々な大学の学生が参加する英語劇の団体に所属し、いろんな学生に出会って、吹っ切れた。「大学デビューは、結局しなかったです。あえていえば、自分らしく生きられるようになったのが、私の大学デビューかな」

モデルの夢に目覚めた男性も

大学デビューは女性だけの話ではない。学習院大学3年の土屋岳詩さんは「大学に入ったら自分の枠を外したいと思っていた」という。

高校時代は周囲が求めるキャラクターを演じるように生きていた。変わるきっかけを求めて、大学でイベント系のサークルに入った。そこにはオシャレの意識が高い人がたくさんいた。当時の彼女もその一人。彼女にすすめられ、髪はパーマをかけた。すると不思議なことに「毎日、鏡を見るようになった。そうしたら自分の顔立ちがだんだん変わっていくのがわかった」。

おしゃれは盗むもの。だから、自分はちょっとかなわないという人をみつけるようにしてみた。自分のブランド立ち上げを考えているような感度の高い友人と一緒に買い物に行った。資金は引っ越しのバイトで稼いだ。

サークルでも約30人の学生を束ねる宣伝担当リーダーになり、徐々に自信がついてきた。表舞台に出てみたい。そう思うようになった土屋さんは3年生になって、次の行動に出る。元有名モデルのレッスンを受けるためのオーディションに挑戦し、見事合格した。「かっこよくなることは生きるツール。モデルは生きざまもかっこよくなければいけない」と自分を磨き続けている。

(藤原仁美、安田亜紀代)

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