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渇く大河メコン川 記録的な水位、希少イルカの運命は

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ナショナルジオグラフィック日本版

東南アジアのメコン川では、何カ月も前から、漁網にからまりながらふらふらと泳ぐ希少種のイルカ(カワゴンドウ)が目撃されている。彼らの本来の生息地であるカンボジア北部からは遠く離れた場所だ。現在、保護活動家が手遅れになる前に救出しようと計画を練っているが、時間はあまり残されていない。

カンボジアの民話には、イルカが比喩的な役割で登場することがある。衰弱し、方向を見失ったこのイルカは、まさに進むべき道を見失ったメコン川のようだ。イルカの運命と同様に、メコン川もまた大きな岐路に立たされている。地球上でもとりわけ豊かな生態系を支えている大河が、流域全体で縮小する兆しが強まっているのだ。

アジアの6カ国にまたがる全長約4200キロのメコン川に危機が迫っているという声は、何年も前から上がっていた。ダムの建設や魚の乱獲、砂の採掘などに、川が永遠に耐えられるわけではないと、人々は危機を訴えてきた。それでもメコン川は、この川に頼って暮らす6000万以上の人々に、多大な恩恵をもたらし続けてきた。

だが、2019年に事態は悪化し始める。ことの起こりは、5月下旬の雨期に降るはずの雨が降らなかったことだ。一帯を干ばつが襲い、メコン川の水位は過去100年間で最低の水準にまで落ち込んだ。最終的に雨は降ったが、例年のように長くは続かず、干ばつは解消されなかった。

そしてここ数カ月の間に、奇妙なことが起き始めた。北部の一部の地域で、大河であるはずのメコン川が、チョロチョロと流れる小川ほどに細くなってしまったのだ。川の水は不気味な色に変わり、藻の塊が増え始めた。世界最大規模の内陸漁業を支えてきたメコン川の漁獲量は減り、獲れる魚は他の魚の餌にしかならないほどやせ細っていた。

「長い間、多くの人々を支えてきたこの川が、あらゆる点で限界に来ている兆候が見られます」と話すのは、米ネバダ大学リノ校の魚類生物学者で、ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー(協会が支援する研究者)でもあるゼブ・ホーガン氏だ。

数千年にわたって文明を育んできた川に、いったい何が起きているのだろうか。

干ばつ時に中国を流れる水量は全体の半分

チベット高原の氷河に源を発するメコン川は、中国の険しい渓谷を流れ、ミャンマー、ラオス、タイ、カンボジアを通り、ベトナムの広大なデルタ地帯に出て、最後は南シナ海に注ぎ込む。

メコンには非常に多くの川が流れ込んでおり、どこか1カ所で起きた変化が、別の場所に多大な影響を及ぼすことがある。知られているだけでも500種以上の魚が生息し、未知の種も数多く存在する。

こうしたメコン川の豊かさは、特定の季節に起こる洪水によるところが大きい。洪水によって魚や水鳥たちにとって理想的なすみかが作られ、農業に必要な養分を含む堆積物が下流へと運ばれる。

ところが、こうした自然の水の増減が、水力発電ダムや気候変動によって大きく妨げられていると専門家は話す。

近年まで、その原因の大半は、メコン川で11基のダムを運用する中国にあった。中国のダムにたまる水の量は454億立方メートルを超えている。現在のような極端な干ばつになると、中国を流れるメコン川の水量は全体の半分にも及び、下流の流れは大きく減ってしまう。

「干ばつが始まると、事実上、中国がメコン川の流れをコントロールすることになります」と話すのは、米国のシンクタンク、スティムソン・センターの東南アジア・プログラムの責任者、ブライアン・アイラー氏だ。

長年にわたり、タイ北部の漁師や農家は、中国がダムに水を貯めたり放流したりするたびに激しく変動する水量への対応を余儀なくされてきた。そうした水量の変化は、魚の移動に害をなす。また、突然水位が上昇すると、農作物や家畜、各種設備を押し流して、地域経済を混乱させる。

状況はさらに深刻さを増している。2020年の始めに、中国が景洪ダムからの放水量を試験的に半減させたところ、川の数カ所で水位が極端に低下。巨大な岩や砂州が露出して、もはやそこが川だとわからない状態になってしまった。

水清ければ岸が侵される

周辺地域の最貧国であるラオスも、数百基もの水力発電所の建設を新たに進めており、ダムの影響は今後ますます大きくなると予想される。

ラオスはすでにメコン川の支流で60基以上のダムを運営している。中国よりも下流の地域では、これまでダムのなかった本流にも、さらに数基を設置する計画を進めてきた。2019年末には、このうちの2基が稼働を開始した。

2基のうち、より大規模なサヤブリ・ダムは、魚の移動を妨げ、下流の村に悪影響を及ぼすとして、長年、法廷闘争の対象となってきた。ダムの開発元であるタイのCKパワー社は、660億円以上を費やして、予想される悪影響を軽減する措置をとったと主張している。そうした対策は、例えば、魚道(ぎょどう、魚の遡上などを助ける水路)の設置や堆積物を流すための特別な門といったものだが、多くの環境保護活動家は、その効果に疑念を抱いている。

ダムが稼働し始めてまもなく、普段はチョコレート色のメコン川が、はるか南の方で鮮やかな青色に変わり始めた。流域の土壌を豊かにしてきた堆積物が川の水に含まれていないせいだった。こうした状態は「ハングリーウォーター」と呼ばれ、川岸を激しく侵食して大きな被害をもたらす可能性がある。

生態学者らは、サヤブリ・ダムによって堆積物がせき止められているのだろうと推測している。だが、川の流れが弱いために堆積物が川底に沈み、支流から流れ込んでくる青い水の力が、褐色の水を圧倒しているのかもしれない。いずれにしろほぼ確実なのは、発電所が放出する水の量が取り込む量よりも少ないせいで、下流の水位が下がっていることだ。

また、ゆっくりと流れる透明な水の中では、川底の砂や岩で藻が繁殖する。通常の状態であれば藻は流されてしまうが、今は川にその勢いがない。おかげで、数週間のうちにタイとラオス領内の川は、完全に緑色に変わってしまった。

ハングリーウォーターはカンボジアにも流れ込んでいる。「ハングリーウォーターの被害がさらに広がる恐れがあります」と、国際機関「メコン川委員会」の環境管理責任者、ソ・ナム氏は言う。「この極端な低水位が続けば、次の雨期が来るまで事態は好転しないかもしれません」

漁獲量が最大90パーセント減少

メコン川流域が気候変動の影響を受けやすいことも、数々の研究で示されている。母なる自然の力に頼ることは、もう確実な方法ではなくなりつつある。現在の干ばつは、主にエルニーニョ現象によるものだ。エルニーニョはこの先数年続くと予想されており、上昇する気温のせいで干ばつがさらに悪化する可能性もある。

漁業に関して、最も大きな影響を被るのはカンボジアだ。同国には東南アジア最大の湖であり、「メコンの心臓」とも呼ばれるトンレサップ湖がある。

トンレサップ川を通じてメコン川とつながっているこの湖は、毎年、雨が降り始めると通常の何倍もの大きさになり、魚が育つのに適した場所になる。商業的にも非常に重要で、例年、少なくとも50万トンの魚が水揚げされる。これは北米のすべての川と湖の漁獲量の合計を超える量だ。

ところが2019年は、メコン川からの水がトンレサップ湖に届いた時期が非常に遅く、またすぐに引いてしまったため、水が行き渡らないところが多かった。水深が浅く、水中の酸素も少ないせいで、魚が大量死したとの報告がある。

ある推定によると、トンレサップでは漁獲量が最大90パーセント減少し、多くの漁師が廃業を余儀なくされたという。漁師を続けている人の多くは、人間の食用ではなく、養殖場の餌にするために幼魚を捕っていると、トンレサップの問題を取材しているカンボジア人ジャーナリストのロハニー・イサ氏は言う。

漁業にとって厳しい状況は今も続いている。トンレサップ川を下ってくる水も魚も、例年よりはるかに少ない。通常ならば、ここでは地球上でも最大級の動物の移動が起こり、絶滅の危機にひんするメコンオオナマズを始め、何十億匹という魚がメコン川に戻っていく。

ところが、ここ数カ月、漁師たちはオオナマズを一度も見ていない。そのうえ、主要な漁獲物であり、カンボジアで「マネーフィッシュ」とも呼ばれるコイの仲間のトライ・リエルの漁獲量が大幅に減っている。トンレサップ川で「ダイ」と呼ばれる定置網漁を行う60を超える業者の3分の1以上は、今シーズンはまだ操業を始めてもいない。

昨年末、首都プノンペンの北約65キロの位置にあるダイを訪ねたときには、漁師たちが大量のトライ・リエルを舟の甲板に引き揚げていた。しかし、操業責任者のスー・マオ氏によると、獲れた魚の量は好調な年にはるかに及ばないという。また、サイズも格段に小さい。

今年の初めにはダイの漁獲量はさらに減り、漁師の大半が操業をやめた。

米国際開発庁(USAID)が資金援助する事業「ワンダーズ・オブ・ザ・メコン」のリーダーを務めるホーガン氏は、干ばつが何年も続けば、多くの魚種の個体数も、その魚を獲る漁業も、壊滅的な打撃を受けるのではないかと懸念している。

「魚の回復力はすばらしく、干ばつなどの自然現象に遭遇しても、数を回復させられます。ただし今は、川が自然の変動の範囲を超えて変化しているため、油断ができないのです」

スティムソン・センターのアイラー氏は、最大の懸念はトンレサップ地域の深刻な食料不足だと語る。「トンレサップの通常の漁獲量は、ひとつの水域としては世界最大であり、カンボジアに暮らす1600万人が摂取するタンパク質のほとんどを供給しています。カンボジアでは市場の魚の価格が急騰しており、いつ食料危機が発生してもおかしくない状況です」

最大の懸念はトンレサップ地域の深刻な食料不足

乾期に入った今、状況が急激に悪化する恐れがある。タイ当局は、今後数カ月の間に深刻な水不足が起こると警告しており、カンボジアは大規模な食料不足に直面するかもしれない。一方、ベトナムではデルタ地帯の状況が懸念されている。デルタ地帯では、主に砂の採掘によって広い範囲で侵食が起こり、多くの家や道路が崩壊して、6つの州で緊急事態宣言が出された。

アイラー氏によると、地域の政策決定者らは、まだ事態の深刻さを認識していないという。「メコン川流域各国の政府の反応は鈍いです。これでは迫り来る危機を理解し、力を合わせてリスクを減らしたり、回復力を向上させたりすることはできません」

ホーガン氏は、メコン川が生き延びるためには、経済的な優先順位を変える必要があると考えている。「メコン川は、この川を電力源としてとらえる人々の利益のために、作り変えられて来ました。そうした状況を変え、自由に流れる健康な川がもたらしてくれる食料や肥沃さ、生態系の機能などが、より高く評価される必要があります」

それはつまり、メコン川のダム建造レースを中止するか、少なくともそのペースを遅らせるということだ。しかし、それが実現する様子は今のところない。例えばカンボジアは、同国北部に建設を予定している2基のダム計画を見直す可能性もある。だが、ラオスは最近、多くの議論を呼んだにもかかわらず、世界遺産の街ルアンパバーンの近くに建設するダムについて、予定を早めて今年中に着工すると発表した。

政策の変更には地域での協力が不可欠だ。タイ、ラオス、カンボジア、ベトナムの4カ国が加盟するメコン川委員会の役割の強化を望む声もある。長年の間、メコン川委員会は政治的な発言力は弱いとみなされてきた。その理由は、中国が独自の委員会である「ランカン・メコン協力」を設置し、メコン諸国の協力制度を主導しようとしているためだ(ランカンはメコン川の中国名)。

しかし最近、両委員会はより緊密に協力するという誓約を交わした。「これは良い出発点です」と、メコン川委員会の最高戦略・パートナーシップ責任者のアヌラック・キッティクン氏は言う。「中国は以前よりもオープンになっています。歓迎すべきことです」

キッティクン氏によると、2020年の始めに景洪ダムで試験を行った際、中国は下流各国に対し、水量が減ることを1週間前に通知してきたという。「これまで、中国はこうした通知を行ってきませんでした」

環境保護活動家の多くは、メコン川を救うのはまだ手遅れではないとの見方で一致しているようだ。「私たちは、メコン川が傷つけられるのを見てきました」と、NPO「インターナショナル・リバーズ」の活動家、ピアンポルン・ディーツ氏は言う。「それでも、メコン川は死にません。メコン川の計り知れない生態学的価値を回復させ、地域の未来を支えるため、再び川を機能させることは可能なのです」

(文 STEFAN LOVGREN、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2020年2月29日付]

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