大学で知った「チーム」の楽しさ

「母の病」を中心に回っていた世界の外に、どう踏み出すか。人知れず、もがいた。

「目標を決めて達成すること」を好む性格だという東氏。たどり着きたい場所へと向かうベンチマークをまず意識し、次にとるべき行動を選択する。起業家向きとも映る資質は、学生時代から変わらない。大学へ入学するやいなや、テーマに据えたというのが「社会性の獲得でした」と苦笑する。

「高校時代までは部活動も文化系で、集団プレーより個人プレーというタイプでした。何より母が病気になってからは介護で忙しく、友人と一緒に過ごす時間もあまりなくて。ですから、ある種のショック療法のような感じで、自分を外へ開くということをしたいと思った。それで、入学直後に勧誘を受けて『一番うるさくてなじめないかも』と感じたアメリカンフットボール部に、あえてマネジャーとして入部したんです」

選手は全員男性で、女性マネジャーは少数派。日頃の練習ではもちろん、飲み会などでも「男性を立てたり、細かいことに気を配ったりするのは初めての経験で戸惑った」と振り返る。だが、思い切って飛び込んだアウェーともいえる環境で新しい自分と出会えた。

「意外にも自分はチームワークが好きなんだという気づきがありました。もちろん、選手が主役でマネジャーはサポート役という違いはありましたが、そこに上下関係はなかった。マネジャー同士の間でも『記録を取る』『戦略を立てる』『コンディション面でのケアをする』など、様々な役割があったんです。それぞれのメンバーが責任を果たしながら、一つの目標に向かって情熱を燃やす――そういう中に身を置いていたいという感覚は今、自分の会社を経営するうえでも核になっていると感じます」

大学のアメリカンフットボール部で「チーム向き」と気づいた

リリーメドテックの従業員数は創業から3年余りたった2020年現在、40人ほどにまで増えている。大手の医療機器メーカーから同社のミッションに共感して転職してきた経験豊富なメンバーもいれば、インターンの学生など若いメンバーも含まれる、多様性に富んだチームだ。

「私たちの事業は、医療分野というレガシー産業の中にありながら、同時に新規性も兼ね備えているところに大きな特徴があります。多様な知見や能力を持つメンバーたちが互いに助け合えるチームづくりが不可欠です」

学生時代にのめり込んだのは部活動だけではない。学問にも励み、米国留学も経験して航空宇宙分野の研究者としてキャリアを積む。しかし、今度は父親の急死に見舞われ、経済的な理由で研究を続けることができなくなった。

「何が何でも、母の分まで精一杯に生きる」。そんな気持ちがずっとあった。10代で経験した喪失体験は、東氏の人生に影を落としながらも、一方で新しい世界へと意識的に飛び込む原動力にもなっていた。「やっと自分自身の手で切り開いたと思えるキャリアを歩み始めたところに、突然降りかかってきたのが父の死でした」

挑戦へのモチベーションも一度は途絶えた。それでも、「自分のリハビリのしかたは自分で見つけなければ」と計測器メーカーのエンジニアとして働くことを選んだ。起業の直接のきっかけとなる情報を、夫の隆氏から知らされたのは、ちょうどその頃のことだ。

(ライター 加藤藍子)

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