「ひがしおおうら」ってどこ タクシー、地名の迷い道鉛筆画家 安住孝史氏

そこで20代半ばくらいの青年を乗せたときのことです。「浅草公園を通って『げんもんばし』を渡ってください」と言われました。すぐに言問橋(ことといばし)のことだとわかりましたが、なんとなくユーモラスに表現されたような気がして印象に残りました。

JR御茶ノ水駅の聖橋口にて(画・安住孝史氏)

なかなかわからないケースもあります。やはり御茶ノ水駅で男性2人が「ひがしたいしょうもん」と言って乗ってきました。ひと呼吸おいて想像はついたのですが、念のため漢字を聞くと「東大正門(とうだいせいもん)」です。少し遠回しに「学校にご用ですか」と聞くと違うとのこと。東京大学を意識せずに地名としてのみ文字を見る場合は無理もないことです。別のお客さまでしたが、本当にわからなかった行き先が「ひがしおおうら」。これは「東大裏(とうだいうら)」のことでした。

聞き間違えやすい「日比谷」と「渋谷」

考えてみますと、同じ表記や発音の地名が東京にはたくさんあります。例えば「入谷」は台東区と足立区、「三田」は港区と目黒区にあります。「千束」と「洗足」、「鶴巻」と「弦巻」は、それぞれ読みは「せんぞく」「つるまき」で同じです。意外に聞き間違いやすいのが「日比谷」と「渋谷」。文字をみるとまったく違うのですが。

鹿骨(ししぼね)、猿楽町(さるがくちょう)、小日向(こひなた)などは、知っていないとなかなか正確には読めません。町の読みも「まち」か「ちょう」かで印象が違います。「神保町(じんぼうちょう)」と「大手町(おおてまち)」は地下鉄の隣接駅ですが、「じんぼうまち」「おおてちょう」と言われると、ちょっと戸惑います。

タクシー運転手は似ていたり聞きなれなかったりする地名を耳にしたときは、用心して聞き直しますが、仲間から聞いた次の話は、単なる聞き間違いとは言えず、ひとごとではないと感じたことを思い出します。

上野駅前で乗ったお客さまが行き先を「東小金井駅」と言ったのを「北小金駅」と取り違えたというのです。それで東方向に走り出し、隅田川の橋の上でお客さまの方が気づいて注意したという話です。北小金駅は上野駅から伸びる常磐線の駅ですから、思い込みがあったのでしょう。東小金井駅は上野駅と接続しない中央線の駅で、ずっと西ですから、そのまま走り続けていたらと考えると、笑えませんでした。

これから地方の若者が大勢上京してきますが、地名を覚えるだけで大変でしょう。慣れない土地で苦労する彼らをいちばん心配するのは親御さんです。「親」という字は、木に登り、さらに立ちあがってまで旅立つわが子を見送ろうとする姿を表していると聞いたことがあります。

旅立ちの季節は、別れの季節でもあります。気楽に「バイバイ」と別れるのもいいですが、互いに離れがたく、別れを惜しむ心もまた尊いものです。こうした「惜別」を重ねるごとに人は成長していくものではないでしょうか。惜別の思いで胸をいっぱいにした若者たちにエールを送ります。

JR御茶ノ水駅前で客待ちするタクシー(画・安住孝史氏)
安住孝史
1937年(昭和12年)東京生まれ。画家を志し、大学の建築科を中退。70年に初個展。消しゴムを使わない独自の技法で鉛筆画を描き続ける。タクシー運転手は通算20年余り務め、2016年に運転免許を返納した。児童を含めた芸術活動を支援する悠美会国際美術展(東京・中央)の理事も務める。画文集に「東京 夜の町角」(河出書房新社)、「東京・昭和のおもかげ」(日貿出版社)など。

管理職・ミドル世代の転職なら――「エグゼクティブ転職」

5分でわかる「エグゼクティブ力」
いま、あなたの市場価値は?

>> 診断を受けてみる(無料)

「エグゼクティブ転職」は、日本経済新聞社グループが運営する 次世代リーダーの転職支援サイトです

NIKKEI 日経HR


今こそ始める学び特集
ブックコーナー ビジネス書などの書評はこちら
注目記事
今こそ始める学び特集
ブックコーナー ビジネス書などの書評はこちら
NIKKEI STYLEは日本経済新聞社と日経BPが共同運営しています NIKKEI 日経BPNo reproduction without permission.