「ひがしおおうら」ってどこ タクシー、地名の迷い道鉛筆画家 安住孝史氏

夜の東京復活大聖堂(ニコライ堂)=画・安住孝史氏
夜の東京復活大聖堂(ニコライ堂)=画・安住孝史氏
夜のタクシー運転手はさまざまな大人たちに出会います。鉛筆画家の安住孝史(やすずみ・たかし)さん(82)も、そんな運転手のひとりでした。バックミラー越しのちょっとした仕草(しぐさ)や言葉をめぐる体験を、独自の画法で描いた風景とともに書き起こしてもらいます。(前回の記事は「良寛の里でみつけた風情 タクシー元運転手、新潟の旅」

春なれや名もなき山の薄霞(松尾芭蕉)。桜の便りが少しずつ耳に届きはじめるこの季節は、卒業や別れのときでもあり、少し寂しい季節です。いつもなら美しく着飾って卒業式にのぞんだ女子学生や、花に誘われた観光客でにぎわうはずの街も、今年は残念ながら新型コロナウイルスの影響で閑散としています。さしもの東京・秋葉原さえ例外ではありません。そんな時期ではありますが、今回は少し目先を変えて、東京の地名をめぐるお客さまとのやりとりを紹介します。

春休みは進級・進学のはざまですから、夏冬の休みと違って、宿題らしい宿題がありません。ですから、そろって遊びにでかける高校生を目にすることが多くなります。

春休みに「月の島」へ

JR新橋駅前で高校生らしき女子3人が乗車してきたことがありました。行き先は「月の島」です。すぐにぴんと来ましたが、一応「どうしてそこへ?」と尋ねますと「もんじゃ」を食べに行くとのこと。もんじゃ焼きは月島(つきしま)商店街の名物です。

東京には「夢の島」という土地もありますから、月島を月の島と読むのも「あり」だと思いましたし、若いお嬢さんがそう呼ぶのは、良いものにも感じました。

僕が地名としては「つきしま」が正解であることをそれとなく伝え、ニコニコしながら「どこから来たの?」と聞きますと「福生(ふっさ)」との答え。福生市は東京都の西側にありますから、東の都心に来るのは珍しかったんだと思います。彼女たちから「どのお店がいい?」と聞かれましたから、幼なじみの店の近くで車を止めて「あの店は美味(おい)しいよ」と薦めました。

僕は浅草にあるタクシー会社に勤めていましたので、JR鶯谷駅やJR御茶ノ水駅に「着け待ち」することがよくありました。御茶ノ水駅に着けるときは、ドーム屋根の美しいニコライ堂(東京復活大聖堂)前から聖橋(ひじりばし)に向かう通りに並びました。

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