「ひがしおおうら」ってどこ タクシー、地名の迷い道
鉛筆画家 安住孝史氏
夜の東京復活大聖堂(ニコライ堂)=画・安住孝史氏
春なれや名もなき山の薄霞(松尾芭蕉)。桜の便りが少しずつ耳に届きはじめるこの季節は、卒業や別れのときでもあり、少し寂しい季節です。いつもなら美しく着飾って卒業式にのぞんだ女子学生や、花に誘われた観光客でにぎわうはずの街も、今年は残念ながら新型コロナウイルスの影響で閑散としています。さしもの東京・秋葉原さえ例外ではありません。そんな時期ではありますが、今回は少し目先を変えて、東京の地名をめぐるお客さまとのやりとりを紹介します。
春休みは進級・進学のはざまですから、夏冬の休みと違って、宿題らしい宿題がありません。ですから、そろって遊びにでかける高校生を目にすることが多くなります。
春休みに「月の島」へ
JR新橋駅前で高校生らしき女子3人が乗車してきたことがありました。行き先は「月の島」です。すぐにぴんと来ましたが、一応「どうしてそこへ?」と尋ねますと「もんじゃ」を食べに行くとのこと。もんじゃ焼きは月島(つきしま)商店街の名物です。
東京には「夢の島」という土地もありますから、月島を月の島と読むのも「あり」だと思いましたし、若いお嬢さんがそう呼ぶのは、良いものにも感じました。
僕が地名としては「つきしま」が正解であることをそれとなく伝え、ニコニコしながら「どこから来たの?」と聞きますと「福生(ふっさ)」との答え。福生市は東京都の西側にありますから、東の都心に来るのは珍しかったんだと思います。彼女たちから「どのお店がいい?」と聞かれましたから、幼なじみの店の近くで車を止めて「あの店は美味(おい)しいよ」と薦めました。
僕は浅草にあるタクシー会社に勤めていましたので、JR鶯谷駅やJR御茶ノ水駅に「着け待ち」することがよくありました。御茶ノ水駅に着けるときは、ドーム屋根の美しいニコライ堂(東京復活大聖堂)前から聖橋(ひじりばし)に向かう通りに並びました。