幸せな働き方、協働で実現 女性リーダー3人が討論
グローバル・ウーマン・リーダーズ・サミット2020
世界で活躍する女性リーダーの育成の推進に向け、日本経済新聞社は2月10日、「グローバル・ウーマン・リーダーズ・サミット2020」を都内で開いた。幸せな働き方をテーマにしたパネルディスカッションでは、女性リーダーらが体験に基づいて語り合った。司会は日本経済新聞社編集委員の木村恭子が務めた。
アイスランド男女平等評議会の事務局長などを経て外務省へ。2018年3月から現職、夫婦で来日した。弁護士資格を持つ。
大和証券グループ本社副社長 田代桂子氏
1986年に大和証券入社。米スタンフォード大でMBA(経営学修士)を取得し、3カ国の海外駐在などを経て19年から現職。
国際法律事務所 モルガン・ルイスパートナー ナンシー・ヤマグチ氏
1993年米ハーバード大学大学院修了。米企業の法務担当役員などを歴任した。専門はM&A、ベンチャーキャピタルなど。弁護士。
司会 仕事と生活を両立するワークライフバランスにとって何が必要ですか。
フリーゲンリング 育児や家事などの負担を両親やパートナーと共有し、職場で翼を広げて仕事を楽しむことだと思う。掃除ロボットなど家事の負担軽減につながるだろう。ただ、育児はやはり両親が関わることが大事だ。
ヤマグチ 私には息子が一人いる。仕事のことを考えると一人で十分と思った。しかし今は柔軟性の高い働き方が可能になっている。私の法律事務所ではオンラインで書類を作成し、ビデオ会議で顧客と相談する。ただ、長期出張などで家を長く空けることもしばしばある。そばにいられる時に子どもと一緒にいることが重要だと思う。
田代 私は結婚や育児を経験していない。多くの会社がワークライフバランスのために在宅ワークや有給取得などを勧めているが、それが使えない企業風土が問題だ。気兼ねなく育休を取ったり、在宅で仕事をしたりできることが大事だ。
司会 社会や文化的な背景が異なる環境の中で、仕事をどのように進めたらいいと思いますか。
フリーゲンリング 全ての人に多様なバックグラウンドがあることを認めて、尊重することだ。自分が尊重されたかったら、他者にも尊重の念を持つべきだ。外交官だった時、国と国の意見が食い違うことはよくあった。そんな時でも相手の文化の核心や信念を学んで尊重するところから解決策が見つかった。
田代 シンガポール、ロンドン、ニューヨークと3回の海外勤務を経験した。人種や学歴、育った環境が異なる様々な人がいるので、あうんの呼吸は通じない。自分のアイデンティティー(自分らしさ)を伝えることが他者を理解するためにも欠かせない。
ヤマグチ 私はM&A(合併・買収)関連の弁護士として男性優位社会の法曹界で生き抜いてきた。あるM&A案件では13人の白人の男性弁護士相手に私1人で交渉した。彼らに勝った時はそれは爽快な気分だった。そういう厳しい環境を選んだのも私自身。何かを勝ち取るためには苦労することも大事だと思う。
司会 仕事での困難をどう乗り越えてきましたか。
ヤマグチ 私は幼少のころ米国に移住し、米国で教育を受けた。子どものころは日米貿易摩擦の最中で「ジャップ」と罵られいじめられた。こうした体験があったから、戦うことに疑問は抱かなかった。現在の法律事務所の会長は女性で、労働法、独禁法など主要な分野のパートナー弁護士は女性がずらりと並ぶ。そういう面では心強い。
フリーゲンリング 数少ない女性外交官として働き始めたが、仲間から疎外されたことがある。外交は男性優位の社会で、「女性を入れない」という権力の争いに巻き込まれたのだ。言葉による性的ハラスメントも受けた。
こうした行為を男性たちがするのは、権力を誇示し、女性の気持ちをくじくためだ。私は仕事が好きだったのでどうにか乗り切れた。
田代 私には特技がある。何を言われても動じない「鈍感力」だ。自分のことを非難する人がいるのかもしれないが、全く聞こえない。言いたいことを言い、やりたいことをやってきた。自分のことは本当に耳に入らないが、他の女性がそんな目にあったら一緒に戦ってきた。
司会 女性の幸福とは何だと思いますか。
ヤマグチ 競争社会の米国では、お金でその人の価値が判断される。それは悪いことではない。ただ、男女の所得格差を埋めることが女性の最終的な幸福とは思わない。
若い女性弁護士が多忙で、子どもや家族を持てないことへの不安を口にしたことがある。彼女にパートタイムで働き続ければいいと助言したら安心した。お金よりも価値あるものが女性にはある。
フリーゲンリング アイスランドでは女性がストライキや政治進出、クオータ(割り当て)制の導入などで女性の社会的地位を高めてきた。今日なら他にも様々なツールが使える。例えばメディアの活用だ。欧州では草の根NPO(非営利組織)が女性のエンパワーメントに貢献している。女性は投票権を有効に活用し、あるべき社会に変えていくことも重要だ。
司会 幸せな働き方をするのに必要なことは。
田代 私は同僚が元気でいきいきと働いていることがうれしい。小さな目標を立ててそれを達成する。その積み重ねが「来週月曜日も会社に行こう」という勇気になる。
何かトラブルを抱えれば、周りの女性を巻き込んで解決すればいい。仲間とのネットワーク作りこそ大切だ。
ヤマグチ 競争社会の米国に欠けているのはこうしたコミュニティー(共同体)だ。競争はもちろんいいことなのだが、ともすれば人々は不安を覚えながら生活する。日本はきずなが重視される風土があるからそれを大事に育てていくべきだ。
私が働く米シリコンバレーも、ネット関連のスタートアップが助け合い、目標を達成して喜び合う環境がある。そこで貢献できるのが私の幸せだ。こうした人的ネットワークを広げることが幸せな働き方になると思う。
[日本経済新聞朝刊2020年3月9日付]
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